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「じゃ、やろっか」  そう言った桐人は慣れた様子で黒いエプロンに首を通した。そっちは前で紐を結ぶタイプ。  格好いい。    一緒に手を洗ってから調理スタート。 「じゃ知希。玉ねぎ、皮剥いて」  冷蔵庫の野菜室から出した、ひんやりした玉ねぎを渡された。 「ゴミ箱はこれ」  キッチンのワークトップの隅に置かれていた、フタ付きの白くて四角い箱を手前に寄せながら桐人が言った。 「うん」  これぐらいなら出来る。  ぱりぱりと皮を剥いていると、桐人は米を洗っていた。1回だけだったから無洗米だな。 「桐人、剥けたー」 「サンキュー」  炊飯器に米をセットして、桐人が振り返る。 「じゃ、次はこれ洗ってて」  そう言いながら、桐人はミニトマトとサニーレタスとザルをワークトップに並べた。 「レタスは3枚剥がして洗ってからちぎって。ミニトマトは全部洗っていいよ。あ、ヘタも取っといて。で、ザルに上げといて」  指示が具体的で解りやすい。  桐人は玉ねぎを切り始めた。 「みじん切り、便利グッズとか使わないの? 桐人」  包丁で手際よく刻まれていく玉ねぎ。 「洗うのが面倒で使わなくなったんだ。今は食洗機あるけど、前はなかったから」  オレがミニトマトのヘタを取り終わる前に、桐人は玉ねぎのみじん切りを終えた。そしてその3分の2をボールに、3分の1をホーローの片手鍋に入れた。 「玉ねぎは炒めない派なの?」 「炒めた方が好き?」 「どっちでも。てゆーか、あんま違いが分かんない」 「なら炒めないでOKだな」  手を洗いながら桐人が言う。そしてオレが洗った野菜たちを見て、うん、うんと頷いて、残ったサニーレタスを冷蔵庫に戻した。 「ハンバーグ捏ねるのと、スープの玉ねぎ炒めるの、どっちやる?」  炊飯器のスイッチを押しながら桐人が訊く。 「コーンスープって玉ねぎ入ってたっけ?」 「缶の側面に書いてあるレシピ通りだよ」 「へえ、そうなんだ。あ、オレ捏ねる」  料理ってこんなに楽しかったっけ? 調理実習とか、母の手伝いとか、キライじゃないけどそんなに楽しいとも思わなかった。  ボールに挽き肉やパン粉を入れていく桐人の手元を、なんだかウキウキしながら眺めてる。 「知希、卵割って」 「はーい」  オレが卵を割り入れてる間に、桐人が何やらスパイスを入れていく。塩とコショウ以外は分かんない。お母さん、塩コショウしか入れないもん。 「素手で混ぜると洗うの大変だから」  そう言いながら使い捨ての手袋を渡された。お店みたい。 「じゃ、よろしく」 「まかせて」  あ、手袋、大きい。  そうだよね、桐人のサイズで買ってあるんだし。  先日のお祭りで手を拭かれたのを思い出してしまって、頬がちりっと熱くなった。  それを誤魔化すように、冷たいハンバーグのタネに手を入れた。

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