23 / 69

      23

 コンロからジュワーッという音がしてきて、バターと玉ねぎの炒まる甘い匂いがしてくる。 「桐人ってさ、料理とか誰に習ったの?」  ボールの中身をぶにーっと握りながら訊いてみる。 「特に誰にも。動画とか色々あるしね」 「それでできちゃう?」 「まあ、それなりに」  そう言いながら桐人がオレの手元を見てくる。  大丈夫かな、これで。 「じゃ、それ3等分して」  コーン缶の中身を鍋に入れながら桐人が言う。空いた缶に牛乳を入れてかき混ぜて、それも鍋に入れてる。計量しつつ、残った缶の中身も入れられるってやつ? 最後にコンソメキューブを一個放り込んだ。 「よし、じゃあ交代。知希、こっちの鍋ゆっくりかき混ぜてて」 「あ、うん」  手袋を外すのがなにげに難しい。わたわたしていると、手袋をはめた桐人が指先の方からするっと抜いてくれた。  オレが鍋をかき混ぜている隣で、熱せられていく油の入ったフライパンの状態を見ながら、桐人がハンバーグを成形している。 「知希、ちょっとフライパンぐるっとして油回して」 「うん」  ご飯の炊けるいい匂いがしてくる。  ハンバーグがフライパンに入れられて、ジュワッと油が跳ねた。  それを見て、お腹がぐーっと鳴ってしまった。 「もうちょっとだよ」  フライパンにフタをして、笑いながら桐人が言う。  恥ずかし 「スープ、もう大丈夫そうだな」  すい、と寄ってきて鍋を覗き込む桐人にドキリとした。肩が触れてる。ほんの少しだけど。  桐人は塩コショウをぱらりと入れると、パチンと火を消した。 「じゃ、スープは出来上がり。あ、知希、食洗機の中にボールとか入れといて」  食洗機のスライドドアをスッと引き出しながら桐人が言った。 「はーい」  食洗機、初めて見た。友達の家でキッチンなんか行かないし。 「閉める時、指挟むなよ」  フライパンのフタを開けながら桐人が言った。  やっぱり、心配されるのってなんか嬉しい。  ハンバーグをひっくり返すジュワッて音と、ふわりと広がるいい匂い。  なんかこんな幸せでいいのかな?  桐人が3口目のコンロにフライパンをもう一つかけて、目玉焼きを焼き始めた。  卵片手割り、格好いい。  両方のフライパンの様子を見ながら、冷蔵庫からケチャップとソースを出してる。  炊飯器が「炊けたよ」とピーピー鳴った。  ハンバーグの焼け具合を見ていた桐人が「よさそうだな」と言ってケチャップとソースをじゅわっと絡めた。 「わー、うまそう!」  つい、寄っていって覗き込んだ。  フライパンを揺する桐人の腕の筋肉の動きが格好いい。  とか思ってる自分はなんか恥ずかしい。でも格好いい。 「油が跳ねるぞ」  と注意されてしまったので、桐人の後ろに下がって背中にくっつき気味にフライパンを覗く。  お母さんになら「ジャマ」と言われる距離。  でも桐人は何も言わない。  お兄ちゃんモードの桐人は、いつもよりもっと優しい。  でも別に『お兄ちゃん』になってほしい訳じゃないけど。

ともだちにシェアしよう!