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コンロからジュワーッという音がしてきて、バターと玉ねぎの炒まる甘い匂いがしてくる。
「桐人ってさ、料理とか誰に習ったの?」
ボールの中身をぶにーっと握りながら訊いてみる。
「特に誰にも。動画とか色々あるしね」
「それでできちゃう?」
「まあ、それなりに」
そう言いながら桐人がオレの手元を見てくる。
大丈夫かな、これで。
「じゃ、それ3等分して」
コーン缶の中身を鍋に入れながら桐人が言う。空いた缶に牛乳を入れてかき混ぜて、それも鍋に入れてる。計量しつつ、残った缶の中身も入れられるってやつ? 最後にコンソメキューブを一個放り込んだ。
「よし、じゃあ交代。知希、こっちの鍋ゆっくりかき混ぜてて」
「あ、うん」
手袋を外すのがなにげに難しい。わたわたしていると、手袋をはめた桐人が指先の方からするっと抜いてくれた。
オレが鍋をかき混ぜている隣で、熱せられていく油の入ったフライパンの状態を見ながら、桐人がハンバーグを成形している。
「知希、ちょっとフライパンぐるっとして油回して」
「うん」
ご飯の炊けるいい匂いがしてくる。
ハンバーグがフライパンに入れられて、ジュワッと油が跳ねた。
それを見て、お腹がぐーっと鳴ってしまった。
「もうちょっとだよ」
フライパンにフタをして、笑いながら桐人が言う。
恥ずかし
「スープ、もう大丈夫そうだな」
すい、と寄ってきて鍋を覗き込む桐人にドキリとした。肩が触れてる。ほんの少しだけど。
桐人は塩コショウをぱらりと入れると、パチンと火を消した。
「じゃ、スープは出来上がり。あ、知希、食洗機の中にボールとか入れといて」
食洗機のスライドドアをスッと引き出しながら桐人が言った。
「はーい」
食洗機、初めて見た。友達の家でキッチンなんか行かないし。
「閉める時、指挟むなよ」
フライパンのフタを開けながら桐人が言った。
やっぱり、心配されるのってなんか嬉しい。
ハンバーグをひっくり返すジュワッて音と、ふわりと広がるいい匂い。
なんかこんな幸せでいいのかな?
桐人が3口目のコンロにフライパンをもう一つかけて、目玉焼きを焼き始めた。
卵片手割り、格好いい。
両方のフライパンの様子を見ながら、冷蔵庫からケチャップとソースを出してる。
炊飯器が「炊けたよ」とピーピー鳴った。
ハンバーグの焼け具合を見ていた桐人が「よさそうだな」と言ってケチャップとソースをじゅわっと絡めた。
「わー、うまそう!」
つい、寄っていって覗き込んだ。
フライパンを揺する桐人の腕の筋肉の動きが格好いい。
とか思ってる自分はなんか恥ずかしい。でも格好いい。
「油が跳ねるぞ」
と注意されてしまったので、桐人の後ろに下がって背中にくっつき気味にフライパンを覗く。
お母さんになら「ジャマ」と言われる距離。
でも桐人は何も言わない。
お兄ちゃんモードの桐人は、いつもよりもっと優しい。
でも別に『お兄ちゃん』になってほしい訳じゃないけど。
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