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「よしOK。後は盛り付ければ出来上がりだ。知希、食器棚の右側の引き出しにランチョンマット入ってるからテーブルに敷いて」
「うわ、オシャレだな。うち無いよ、ランチョンマットなんて」
「貰いもの。使わないと勿体ないから。あ、その前にテーブル拭いて」
「はーい」
言われた通りにお手伝いをしてキッチンに戻ると、ちょっと深さのあるベージュのお皿にロコモコが2つ出来上がってた。離して置いてある生野菜ののってない1つは、お父さんの分なんだろうな。
「うわー。お店のみたいだ。すごい!」
白いぽってりとしたスープカップに、コーンスープを注いでいる桐人を見上げて言うと嬉しそうに笑う。
「ロコモコ、運んでもらえる? 熱いから気を付けて。あ、こっちがお前のね」
そう言いながら桐人が右側のお皿を指差した。
「うん」
ロコモコのお皿を1つずつ運んでいる間に、桐人がスープとカトラリー類を並べて、ついでに「昨夜のだけど」って茹でたブロッコリーとかも出してきて、最後に麦茶の入ったグラスが置かれた。
「カフェだね。絶対300円じゃないでしょ、これ」
「いや、収まってるはずだよ。つーかお前褒めすぎだから。まあいいや、とりあえず食お。腹減っただろ」
「うん! 食う! いただきまーす!」
勢いよく手を合わせたら、ぱんっと音が鳴ってしまった。
桐人がそれを見て笑いながら「いただきます」と言った。
すごい。コーンスープの真ん中にパセリのってる。
ロコモコの目玉焼きにスプーンを入れると、黄身がとろりと流れ出た。
褒めすぎ、とか、そんな事ない。
スープもロコモコも美味しくて、言葉を失う。食べるのに必死で会話はない。
食レポとかマジすごい。よくあんな食べてすぐ感想が言えるな、と思う。
ちょっとお腹が落ち着いて、向かい側の桐人をちらりと見た。
桐人もオレを見た。
「美味い?」
と訊かれて、こくこく頷いた。
「良かった」
優しく微笑みながら言われて鼓動が跳ねて、首からぶわっと熱が湧いてきた。
慌てて俯いて、ロコモコのお皿に視線を落とした。一度唇を噛んで呼吸を整える。
「…たぶん、お母さんのハンバーグより美味しい」
また、一緒にこうして作ったり食べたりしたいから、ちゃんと言う。
思ってることは言わないと分かんないのよ、という母の言葉を噛み締めた。
言ってから、もう一度目線だけ上げて桐人を見ると、珍しく視線をすいと外された。
ちょっと目元が赤い。
「だから…お前褒めすぎ…」
照れてる かわいー
なんて
「そんな事ないよー。マジで美味いもん」
「分かった。分かったから黙って食え。ほらブロッコリーも」
そう言いながら取り箸に持ち替えた桐人が、マヨネーズの入った小皿にブロッコリーを入れてくれた。
「桐人も取り箸使う派だよね。うちと一緒」
「もうそれが習慣だから。あ、でもあれか。知希も虫歯ないんだっけ。なら俺ら2人なら大丈夫、て事?」
「…かも」
視線を合わせて、お互い一瞬黙り込む。
習慣という名の、ある種の呪い。
ある程度大きくなれば、もう虫歯菌はうつらない。
そうは言われても、やっぱり抵抗感はあって、未だに母とも回し飲みや大皿から直箸はしない。
でも、虫歯無い同士だったら、いいのかもしれない。
そう思って桐人をチラリと見た。桐人もオレを見ていた。
2人で目を合わせて少し笑った。
そして2人して食事を続けた。
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