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 毎晩のメッセージの交換。それは今も続いている。  家に帰ってから寝るまで、他愛ないやり取りを続ける。  時々、よく桐人は付き合ってくれてるな、と思う。  桐人が本当はどう思ってるのかは分かんないけど、相手をしてくれるのは嬉しい。  面倒くさいやつだと思われてないといいけど。  今日もピロロンと受信音が鳴った。いつもより早い時間。  あ! ーー明日、学食行かない?    わ、わ、わ、  学食は盲点だったよ。 ーーー行く。  スマホの画面をじっと見つめていると、再びピロロンと鳴った。 ーーじゃ、行こう。  うわーっ! やった!  邦貴は毎日お母さんが弁当を作ってる。学食は弁当の持ち込みはできない事になってる。  だから邦貴は来ない。高橋はどうだろ。いつも弁当だけど。  桐人、弁当作るの休みたい気分だったのかな。  なんでもいいや、理由なんて。  誘ってもらえたのが嬉しい。  明日の昼が楽しみ過ぎる。どうしよう、今夜眠れないかも。  心臓はドキドキ、ドキドキと鳴り続けていて、体温もそれに呼応して上がってくる。  自分は本当に桐人が好きなんだなと、少し他人事(ひとごと)のように思った。  朝になって、学校に行って、桐人の顔を見たらもう胸がぎゅうっとなって、足元がふわりとした。今日は午前中の授業もやばい。  永遠に続くんじゃないかと思った4時限目が終わって、斜め後ろの席の桐人を振り返った。  桐人がオレに向かって頷いた。 「知希、今日は?」  邦貴がこっちに来ながら訊いてくる。 「学食!」  と立ち上がりながら応えた。「ふーん」と言った邦貴がオレ越しに桐人を見た。 「あれ? 遠野今日弁当じゃねぇの?」 「ああ」  桐人も立ち上がり、2人で教室の出入口へ向かう。 「なに、お前ら2人で学食?」  そう言った邦貴の声がやけに不満気で、振り返ろうとすると桐人がオレの肩に腕を回した。  うわっ  友人同士、肩を組むくらい大した事じゃない。邦貴とはしょっちゅうしてたし、他の友達もしてるのをよく見る。  そう思うのに、もうオレはパニック寸前だ。  心臓壊れそう…っ!  桐人に肩を組まれたまま教室を出た。高橋と目が合って、すごい目で睨まれた。  でもそんな事はどうでもいい。  周りがオレたちを見てる気がする。けれどそれはたぶん、桐人に向けられてる視線だと思う。  雲の上を歩くみたいに足元がふわふわして、たぶん何か話しながら歩いてたけど、何を言ったのかは全然覚えてない。  とにかく桐人の腕があったかくて、声が近くてドキドキした。 「知希、何食べんの?」  そうオレに訊きながら桐人が腕を外した。  いつの間にか学食の食券販売機の前まで来ていた。 「あ、えっと、どうしようかな」  さっきまで桐人に触れてたところが熱を持ってて、頭がぼわんとしてる。 「桐人は?」 「カツ丼」  カチッとボタンを押しながら桐人が言った。  やばい 早く決めないと  目の前の食券のボタンを眺めて、サイフの中を確認する。 「オレ、唐揚げにする」  小銭を投入口に入れる時百円玉が転がって、桐人が拾ってくれた。  そのまま投入口に差し込まれるコインを見て「百円玉ってあんなに小さかったっけ?」と思った。

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