27 / 69
27
毎晩のメッセージの交換。それは今も続いている。
家に帰ってから寝るまで、他愛ないやり取りを続ける。
時々、よく桐人は付き合ってくれてるな、と思う。
桐人が本当はどう思ってるのかは分かんないけど、相手をしてくれるのは嬉しい。
面倒くさいやつだと思われてないといいけど。
今日もピロロンと受信音が鳴った。いつもより早い時間。
あ!
ーー明日、学食行かない?
わ、わ、わ、
学食は盲点だったよ。
ーーー行く。
スマホの画面をじっと見つめていると、再びピロロンと鳴った。
ーーじゃ、行こう。
うわーっ! やった!
邦貴は毎日お母さんが弁当を作ってる。学食は弁当の持ち込みはできない事になってる。
だから邦貴は来ない。高橋はどうだろ。いつも弁当だけど。
桐人、弁当作るの休みたい気分だったのかな。
なんでもいいや、理由なんて。
誘ってもらえたのが嬉しい。
明日の昼が楽しみ過ぎる。どうしよう、今夜眠れないかも。
心臓はドキドキ、ドキドキと鳴り続けていて、体温もそれに呼応して上がってくる。
自分は本当に桐人が好きなんだなと、少し他人事 のように思った。
朝になって、学校に行って、桐人の顔を見たらもう胸がぎゅうっとなって、足元がふわりとした。今日は午前中の授業もやばい。
永遠に続くんじゃないかと思った4時限目が終わって、斜め後ろの席の桐人を振り返った。
桐人がオレに向かって頷いた。
「知希、今日は?」
邦貴がこっちに来ながら訊いてくる。
「学食!」
と立ち上がりながら応えた。「ふーん」と言った邦貴がオレ越しに桐人を見た。
「あれ? 遠野今日弁当じゃねぇの?」
「ああ」
桐人も立ち上がり、2人で教室の出入口へ向かう。
「なに、お前ら2人で学食?」
そう言った邦貴の声がやけに不満気で、振り返ろうとすると桐人がオレの肩に腕を回した。
うわっ
友人同士、肩を組むくらい大した事じゃない。邦貴とはしょっちゅうしてたし、他の友達もしてるのをよく見る。
そう思うのに、もうオレはパニック寸前だ。
心臓壊れそう…っ!
桐人に肩を組まれたまま教室を出た。高橋と目が合って、すごい目で睨まれた。
でもそんな事はどうでもいい。
周りがオレたちを見てる気がする。けれどそれはたぶん、桐人に向けられてる視線だと思う。
雲の上を歩くみたいに足元がふわふわして、たぶん何か話しながら歩いてたけど、何を言ったのかは全然覚えてない。
とにかく桐人の腕があったかくて、声が近くてドキドキした。
「知希、何食べんの?」
そうオレに訊きながら桐人が腕を外した。
いつの間にか学食の食券販売機の前まで来ていた。
「あ、えっと、どうしようかな」
さっきまで桐人に触れてたところが熱を持ってて、頭がぼわんとしてる。
「桐人は?」
「カツ丼」
カチッとボタンを押しながら桐人が言った。
やばい 早く決めないと
目の前の食券のボタンを眺めて、サイフの中を確認する。
「オレ、唐揚げにする」
小銭を投入口に入れる時百円玉が転がって、桐人が拾ってくれた。
そのまま投入口に差し込まれるコインを見て「百円玉ってあんなに小さかったっけ?」と思った。
ともだちにシェアしよう!