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食堂の隅にちょうど2つ席が空いていて、向かい合って座った。いつもの学食の風景が違って見える。
手を合わせて食事を始めると、先日の夕食を思い出した。
あの時も向かい合ってご飯を食べた。
普段の昼は、オレは邦貴と、桐人は高橋と食べることが多い。すぐ近くの席だけど、女子たちみたいに机を合わせたりはしない。
「唐揚げ、美味い?」
「あ、うん。美味いよ」
問われて、慌てて顔を上げて応えた。
「一個、カツと交換しない?」
教室でみんなといる時とちょっと違う桐人の顔。
お兄ちゃんモードだ
普段鈍いオレも、この変化だけはなぜか分かった。
「うん、する。オレここのカツ食べた事ない」
「あ、そうなんだ。ほら」
そう言いながら桐人がオレのご飯の上にカツを一切れのせてくれた。
真ん中あたりの大きめのやつ。
「じゃ、これ」
オレも、唐揚げの大きめのを一個、桐人の丼にのせた。
たったそれだけが、気恥ずかしくて嬉しかった。
他の人とはこんな事絶対しない
「たまにはいいな、学食も」
そう言いながら唐揚げを口に入れた桐人が、オレを見てうんうんと頷いた。
「美味いっしょ?」
「美味い。次は唐揚げ定食にしようかな。また来よう、知希」
まっすぐにオレを見ながら桐人がそう言って笑った。
「うん」
胸が苦しくて、そう応えるのが精一杯だ。
鼓動が強くて、飲み込んだものが上手く喉を通っていかない気がする。
食事を終えて教室に戻ったら、邦貴はやっぱり不機嫌そうだった。
今までオレが学食に行くからってあんな顔した事ないのに。
まあ仕方がない。邦貴の機嫌まで構っていられない。
高橋は桐人に何か話しかけてる。
桐人の表情は、すっかり通常モードに戻っていた。
次はいつかな。オレは毎日学食でもいいな。
でもそんな事したら、邦貴と高橋がキレそうな気がする。
理由は分かんないけど、2人とも怒りのオーラを出してる。
やだな、意味分かんないし。
どこで誰と飯を食おうが自由だと思う。
でも何かが胸に引っかかった。
引っかかったけど、その正体は分からなかった。
「トイレ行ってくる」
「あ、じゃあ、おれも」
邦貴が付いてくる。肩を組まれたくないから、ちょっと早足で歩いた。
だって、桐人と肩組んだの初めてだったし。
同じ事をされても、全然違うんだと改めて思った。
桐人の腕が触れた肩から首の辺りを右手で撫でた。
そこにはまだ、桐人の体温が残っているような気がした。
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