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5時限目の休み時間は、誰とも話したくなかったから早々にトイレに逃げた。
廊下で、特別教室に移動しているらしい高橋とすれ違って、思わず顔を伏せた。
高橋は、苦手。
桐人の友達だけど。てゆーか、友達だから、苦手。
時々睨んでくるし、オレの知らない桐人の事を知ってて「これ知らないでしょ」って見せてくる感じがする。
なんでそんな事するのかは分かんないけど。
そもそも高橋は中学から桐人と友達なんだから、オレより親しくて当たり前なのに何でそれをわざわざオレに見せつけてくるんだろう。
てゆーか、友達と仲良い自慢とかしてどうするんだよ。
なんか、お母さんが観てるドラマの女の子同士のマウントの取り合いみたいだ。
「私の方が彼のこと知ってるのよ」みたいな。
…って、あれ…?
もしかして、そうだったら?
高橋が、桐人の事を好きだとしたら…?
桐人をずっと見てる高橋が、オレが桐人を見てる事に気付いたんだとしたら?
6時限目開始のチャイムが鳴って、大急ぎで教室に戻った。
後ろの出入口から入って、桐人の後ろ姿を見て、その横をすり抜けて自分の席に着いた。
変な動悸がする。
そんな訳ないじゃん、なんて思えない。現にオレは桐人が好きなんだ。
同性だから、なんて好きになってしまったら何の障壁にもならない事をオレはもう知ってる。
だから高橋はオレを睨んでくるのかな。
友人として、1番近い距離を死守するために。
だから、桐人は女の子に人気があるんだよって、彼女だっていたんだからさっさと諦めろって、諦めて離れて行けって意味であんな話、したのかな。
でもそれで桐人を怒らせたら本末転倒じゃん。
誰も幸せにならないじゃん、そんなの。
そう思って悲しくなった。
好きな人に好きになってもらうのは奇跡だ。
その奇跡を起こしたくて、やり方を間違えたってオレには高橋を笑う事はできない。
だって必死になるのは当たり前だ。
唯一無二の存在。替えなんか効かない。
手に入らないって分かってても、欲しいって思っちゃうよ。
斜め後ろの席。初めて好きになった人。
ごめんね、高橋。どんなに牽制されても、オレは引かないから。
Continueを押せるうちは押し続ける。
砕け散るまで、このゲームから降りないってオレはもう決めてるから。
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