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Bitter Taste 1

 俺が小学1年生の時、両親が離婚した。  母は3つ下の妹を連れて行き、俺は父と暮らす事になった。  家の中はずっと冷戦状態だったし、仕方のない事なんだろうと思おうとしたけれど、やっぱり淋しかった。本音を言えば母と一緒にいたかった。  時々、父に連れられて父の『彼女』と3人で食事に行った。  俺は父の若くて可愛い『彼女』と母を、いつも心の中で比べていた。  父の『彼女』は俺に気に入られようと、色々話しかけてきたりした。  きっと心の中では俺を邪魔に思っているんだろうな、と思いながら俺なりに頑張って対応した。けれども食事中に「これ美味しいよ」とか言いながら、自分の箸で摘んだ食べ物を皿にのせられるは嫌だった。母は虫歯に気を遣う人で、絶対に箸を共用しなかった。  だから『彼女』が俺の皿に食べ物をのせた時は、他の物と一緒に食べ残した。『それ』だけ残すのはあまりに感じが悪いだろうと思って、まだ食べられても食べられないふりをした。  小5の夏に初めて会った知希の母親は、俺の母と同じで箸を共用しない人だった。俺の中でそれは結構ポイントが高かった。  それに知希と過ごすのは楽しかった。俺は人見知りだったし、口数も少なくて、自分でも人当たりの良くないタイプだったと思うけれど、知希は気さくで明るくてよく喋った。  知希と、知希の母親と4人で家族になるのは悪くないなと思った。  数ヶ月の差で、俺が知希の兄になる。『お兄ちゃん』は大変だけど、でも楽しい事も多そうだと思っていた。  小5の終わり頃、父に転勤の話がきた。父が、知希の母親に電話でやや高圧的に「付いて来い」と言っているのが聞こえた。母と別れる事になった原因も、その偉そうな態度のせいなのに、この人は何で同じ事を繰り返すのだろうと不思議で、そしてこの話は無くなるなと思った。  案の定、父と知希の母親は別れた。  父と2人で知らない街に引越して、でも案外早く、2年半程で戻ってきた。  父の中でまだ知希の母親に未練があったのか、父は前の家よりも知希の家の近くのマンションに決めた。俺は、今も知希たちが同じ家に住んでいるか分からないのにと思ったけれど、言わなかった。  高校に入学してしばらくして、知希を見つけた。陽キャの知希の友人たちも賑やかで、大声で知希を呼んでいる声が聞こえて、同じ名前だなと思ってなんとなくそちらを見ると、高校生になった知希がいた。  知希はあまり変わっていなかった。もちろん成長しているけれど、小5の時の面影がしっかり残っていて、一目で分かった。  時々廊下ですれ違ったりしたけれど、知希は俺に気付かなかった。  俺は視力が落ちて眼鏡をかけていたし、身長もかなり伸びていた。机の引き出しに仕舞ってある、知希と撮った写真の中の俺と今の俺は随分と変わっている。それに知希は俺が戻ってきている事を知らないのだから、分からなくて当然だ。  そう思うのに、全く気付かれなくて口惜しかった。  口惜しかったから、知希が自分で気付くまで放っておこうした。  友人の多い知希は、大体いつも誰かと一緒にいた。  そのうちの背の高い1人が、やたらと知希に構う。  たいてい知希の1番近くにいて、気安く肩を抱く。  知希の頭を撫でて、笑顔を向けられている。  その様子が目に入ると何故かイライラした。  そのうち、知希はもう俺の事なんて忘れてしまったのかもしれない、とも思うようになった。そう思うと、得体の知れない黒くもやもやしたものが心の中に広がった。  気付いてほしい  思い出してほしい  いつしかそんな事ばかり考えるようになっていた。

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