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あの、購買での邂逅以来、知希は廊下ですれ違う時にチラリと視線を送ってくるようになった。でもそれは、俺を思い出したから、という訳ではなさそうだった。たぶん「購買で会ったやつ」くらいの認識だと思う。それでも一瞬目が合うと嬉しかった。
やっぱり、可愛いと思う。女の子たちよりもずっと。
そう思いながらも認めるのが怖かった。
いやもう、認めるも何もないようなものだけれど、まだ俺は自分の気持ちを誤魔化そうとしていた。何かの間違いだ、気のせいだと思いたかった。
でも一方で、何を悪あがきをしているんだと斜め上から見下ろしている自分もいた。
姿を探して、見つけたら嬉しくて、目が合ったら鼓動が跳ねる。
こんなのどう考えても、ただ昔の友人に思い出してほしいだけ、じゃないだろう。
気付いてもらえなくて口惜しいとか、気安く触れるあいつがムカつくとか、そこに透けて見えている感情の名前を、俺は知っているのに必死で目を逸らしている。
でも逃げても逃げても追いかけてくる。
もう、駄目だなぁ。
頭の中は知希でいっぱいだ。こんなに誰かの事を思い続けたのなんて初めてだった。
好き、だなぁ。知希が。
言葉にすると、ストンと腹に収まった気がした。自分の感情から目を逸らしても、それは自分の影から逃げようとしているようなものだ。
認めてしまったらおしまいだと思っていたけれど、むしろここからが始まりだ。
このまま何もしないでなんていられない。
どんな小さなきっかけでもいいから、知希と繋がれないかと思った。でも俺の交友関係と知希のそれは違いすぎて交われない。
今日もただすれ違う。
その瞬間、目が合うのだけが喜び。
ここから一歩、進みたい。
でもどうしたらいいか分からない。
良くないと思いながら、帰宅する知希の後をつけた。
知希は引越していなかった。今のマンションに決めた父に少しだけ感謝した。
そして改めて、知希の交友関係を見直した。
彼女は、いないようだった。ネット上での付き合いとかは分からないけれど、そういうタイプには思えないから、たぶんいない。
よく目を向ける特定の相手もいなさそうだった。
だから何だという話なんだけれど。
彼女が、好きな女の子がいないからと言って、知希の恋愛対象に男も入っている訳じゃない事ぐらい分かってる。
でも知希に特別な相手がいないのは、やっぱりありがたかった。
そういう相手がいたら、例え上手く知希と友達になれたとしても、心の大半はそっちに行ってしまうだろう。今の俺みたいに。
そう思いながら知希を見ていた。
知希の友人のうちの1人、やけに知希に触る男が目障りだった。
明るく染めた髪色が軽薄な印象の、クニタカと呼ばれている男。知希は気付いてなさそうだけど、あの男は知希の事が好きなんだろうと思う。
たまに、うっかり目が合ってしまう。
最初は何の感情ものっていなかったその目に、近頃は勝ち誇ったような色が見えて腹が立つ。
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