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 春休みになって、学校で知希を見る事もできなくて、かといって家を知ってるからって近くをうろつくのも怪しすぎるし、ただイライラと過ごした。  あのクニタカという男は、休みでも知希と会っているんだろうと思って余計ムカついた。  ようやく始業式の日になって、矢も盾もたまらず開門と同時に学校に入った。  昇降口の戸に貼られたクラス表。  食い入るように見つめて、名前を探した。    A組、B組。  Cに自分の名前を見つけて、その少し下に、  森下知希  あった! 同じクラスだ!  これで少しは接点が持てる。  知希が俺の名前を覚えてくれてさえいれば。  でも。  やっぱり、忘れてるんじゃないだろうか。  もう5年も前だ。知希は友人が多い。その知希の、堆積しているたくさんの友人の記憶の中に、俺の存在なんてとうに埋没してしまっているんじゃないだろうか。  やばい。際限なく落ち込んできたぞ。  忘れてるなら、忘れてるでいいじゃないか。  また改めて友達になればいいだけだ。  そうだ。まずは友達だ。同じクラスになれた幸運に感謝しろ、俺。  気を取り直して靴箱に向かって歩き始める。昇降口のガラス戸を通して見える門の方を見てみたけれど、知希はまだ来ていない。  教室に上がろう。教室にいれば知希に会えるなんて最高だろう。  自分にそう言い聞かせながら階段を昇った。  気持ちが不安定すぎて自分の心を持て余す。  知希を見つけてからずっとこうだ。  もし、この高校に入学していなくて、知希と再会していなかったら、平穏な生活を送っていたんだろうか。  そんな事、今更考えても仕方ないけど。  だから俺は、知希を好きになった事を後悔なんかしない。  そわそわしながら自分の席に座って、次々と入ってくる新しいクラスメイトを眺めていた。  会いたくもない、あのクニタカという男も同じクラスでうんざりした。  予鈴が鳴っても知希はまだ来ていなかった。  初日から休みなのか?  勘弁してくれと思っていると、走ってくる足音がして知希が教室に駆け込んできた。  よかった… 来た…  頬を紅潮させて、暑そうにシャツを揺らしながら、あちこちからかかる声に応えている。  あのクニタカとかいう男が、いかにも親しそうに声をかけていてムカついた。    でもとりあえず顔が見れた。慌てて来たんだな、髪ハネてるし。  とかってあんま見てるとヤバ…    あ  目が、合ってしまった。  知希も、あれって顔をしていた。  その「あれ?」は何の「あれ?」だ?  俺がいてアリなのか? それともナシなのか?  そう思ってプチパニックになっていると先生が入ってきて、 「体育館へ移動!」  と声をかけた。出席番号順に並べと言われて、もう知希は見えない。  跳ねる心臓を宥めながら、上の空で始業式に出た。  校長の話なんか右から左だ。何も耳に入ってこない。  この列の数人後ろに知希がいる。  始業式が終わったら、自己紹介がある。  朝のあの感じじゃあ、知希はクラス表は自分の名前しか見ていないだろうと思う。  知希は、俺の名前を覚えているだろうか。

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