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まずは知希と友達になる。その目標は順調に達成できていると思う。
何よりも、知希が俺を覚えていてくれたのは大きかった。
知希の友人たちは割と大らかというか、人見知りしない明るいタイプばかりで、あまりテンションの高くない俺の友人たちの事も受け入れてくれてありがたかった。
黒田とは、いわゆる冷戦状態が続いているけれど、お互い知希がいる時は顔に出さないように気を付けている。
そんな感じで、休み時間や放課後は皆で一緒に過ごす事が多くなっていた。
本音を言えば知希と2人で話したい。でも贅沢は言えない。
そして相変わらず目の前で黒田が知希にべたべたと触るのは腹が立った。
けれど今はそこで終わりじゃない。
帰宅して、夜更けに知希からメッセージが入る。長いやり取りではないけれど、2人だけの時間だ。声が聞きたい気もするけれど、文字が残るのも捨て難い。それにうっかり父に聞かれるのも嫌だった。
ーーー桐人、うちの近所の神社のおまつり行こうって言ってたの、覚えてる?
『おまつり』が平仮名なの、可愛いな。
覚えてるよ、に、もちろん、を付けるかどうか迷う。
結局「覚えてるよ」と送った。
ーーーほんとに?
その後に『わーい』と台詞の付いた笑った猫のスタンプ。
猫か。どこまで可愛いんだよ、お前。
ーーー今年は一緒に行けるね。
スマホの文字がブレる程、心臓が強く鳴った。
一緒に、が、2人で、じゃない事ぐらい解ってる。
どうせあの黒田もいて、大勢でわいわい行くのだ。
それでも、
ーー楽しみにしてるよ。
そう送って、
ーーーオレも!
と返事が来たのが嬉しくて、いつまでも画面を見ていた。
途中高橋からもメッセージがきたけれど、後回しにしてしばらく忘れていた。
ようやく思い出してスマホを見ると、別に学校で言えばいいような内容だったけれど一応返信した。
高橋は最近、以前よりも頻繁にメッセージを送ってくる。それが少し煩わしかった。
「えー、今日の2時限目は歯科検診で自習です。B組が呼びに来たらすぐに保健室に行く事」
朝のホームルームで担任がそう言って出て行った。教室がざわつく。あちこちから「うわー」とか「いやだー」とか言う声が聞こえた。
母のおかげもあって、俺は未だに虫歯になった事がない。だから歯医者の怖さは分からない。
そういえば知希はどうなんだろう。小5の時は虫歯はないって言ってたけど。
「C組、出席番号20番まで保健室行ってー。21番から後は15分後ねー」
B組の生徒が教室の前の戸から顔を出して言っていった。
俺や黒田は前半、知希は後半だ。
いつも通りあっさりと健診が終わって教室に向かって歩いていると、廊下の角を曲がった所に黒田が壁にもたれて立っていた。
黒田は険悪な目付きで俺を睨み付け、一歩踏み出した。
「遠野、お前さ、知希の何なわけ?」
低い声で問うてくる。
「何ってナニが?」
視線を外さずに睨み返した。
「ゲームのイベントで知り合った友達、なんてウソだろ? あいつイベント行くほどゲームにハマってた事なんかねぇぞ」
眉間に深く皺を刻んだ黒田が言う。
知希の事はおれの方が知ってるんだぞ、と言いたげな口調がムカつく。
「黒田、知希の言う事信じてねぇの?」
「どうせお前の入れ知恵だろ」
睨み合っていると、背後から足音が聞こえてきた。
黒田が踵を返して教室へ向かって歩き始めた。その後ろ姿に怒りのオーラが揺らいで見える。
こいつはいつから知希の事を好きなんだろう。
俺はわざとゆっくり歩いて、黒田と距離を取った。
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