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「えー、今日の帰りに例大祭に寄って行く人は、くれぐれも他校と揉めたり、遅くなりすぎたりしないように」
帰りのホームルーム。去年も同じような台詞を聞いているはずだけど、全然覚えていないなと思った。
予想通り、祭りには黒田や高橋たちと大勢で行く事になっていた。
それは思っていた通り、なんだけれど。
斜め前の席。まだ座ったままの知希を見た。
なんとなく元気がない、ように見える。
「知希、どうかした?」
軽く肩をたたきながら訊いてみた。
「あ、桐人。ううん、別に」
慌てたように見上げてくる大きな瞳に、ほんの少し陰りが見える。
あんなに楽しみにしてたはずなのにどうしたんだろう。
そう思っていると、
「知希! ぼんやりしてねーで行こうぜ」
向こう側から黒田が知希に抱きついて言った。
腹の中に黒いインクがどばっと広がるような不快感。
ちらりと視線を流してきた黒田の目は1ミリも笑っていなかった。
「分かった分かった、行くから。暑苦しいなぁ、邦貴」
黒田に抱きつかれたままの知希が緩慢な動きで立ち上がる。
その様子を内心歯噛みしながら見ていると、横に高橋が来ていた。
「遠野はあの神社のお祭り行った事ある?」
高橋が俺を見上げながら訊いてくるのを、同じ上目遣いでもこうも違うものかと思いながら見下ろした。高橋と知希の身長は同じくらいだ。体格も似たような感じだけれど高橋の方が線が細い。
「小さい頃に何度か行ったよ」
前を歩く、黒田に肩を組まれている知希を見ないように視線を下げた。
「今年行こうって思ったのは、森下たちに誘われたから?」
「そうだけど?」
それがどうした。じゃなきゃ行かねぇよ、あんな混み合った場所。
「なんかさ、遠野とお祭りって結び付かないから」
お前もな、と言いそうになって飲み込んだ。
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