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 神社に着いたらそのまま露店に行くのかと思ったら、知希たちが初めに参拝に向かったのは正直意外だった。知希は手水舎で周りをちらちら見ながらあたふたと手を清めて、鞄にタオルを突っ込んだ。  長い露店の列は、ある程度進むとリピートがかかる。その繰り返しの中から適当な店で皆あれこれと買い物をしていた。  知希がお好み焼き屋に並んだから俺も並んだ。食べる物なんて何でもよかった。  後ろに並んできた黒田を邪魔だなと思っていると、目の端に色鮮やかな浴衣の女子たちが映った。こちらに向かってきゃあきゃあ言いながら歩いて来る。  また面倒くせぇのが来たな  最近、ちょいちょい女子が話しかけてくる。たいてい複数人でやって来て取り囲まれる。  そういえば、知希が女子と話してるのはあんまり見た事ないな。  ていうかあれだ。知希が応える前に黒田が応えて追い払う、そういう感じ。  余裕ねぇのな  まあ、気持ちは解る。  そんな事を考えながらテキトーに浴衣女子たちの相手をしていると、先にお好み焼きを買った知希が離れて行った。その様子を目で追いながら代金を払い、品物を受け取った。  本人が気付いているかは知らないが、知希は女子たちに「可愛い」と言われている。黒田も割と人気がある。そして2人がセットでいる事を、彼女たちは楽しんで見ているのだ。  腹立たしい  黒田は女が嫌いなのかと思っていたけれど、それなりに楽しそうに喋っていた。少し離れた所で知希が高橋に話しかけられているのが見えた。  知希が俺たちの方を見ている。あいつの目に今の状態はどう見えているんだろう。  浴衣の垣根は強固で突破するのは案外骨が折れた。 「俺らあっちの階段にでも座るから。浴衣汚れちゃうからここでサヨナラ、ね?」  女の子を怒らせたら、余計面倒くさい事ぐらい知っている。  黒田がニヤニヤしながら見てくるのがムカついた。 「遠野、カタそうに見えて結構女慣れしてんのな。選び放題じゃん。どの子が好み?」 「なかなかに下衆い質問すんね、黒田」  黒田にゲスいと言いながら、知希の反応を見ている自分も十分ゲスい。  高橋と話しながらチラチラと俺たちの方を見ていた知希の表情は、少し曇っていたように見えた。  あんな目を、俺は見たことがある。  中学の頃、俺が彼女といる時に俺たちを遠巻きに見ていた女子や男子があんな目をしていた。  俺が気付いていなかっただけで、知希はさっきの浴衣の中に気になる女子がいるのか?  それとも…  いや、それは無い。絶対ない。普通に考えてありえない。  流れで黒田の隣に座る事になってしまった。高橋が知希に「大丈夫?」と訊いたので振り返ると、どうやら割り箸を上手く割れなかったらしくあたふたしていた。  特別変わった事もない、屋台のお好み焼きだな、というソースとマヨネーズの混ざった味を感じながら、浴衣のメンツを思い出していた。  どう思い返しても、あの中の誰かを知希が目で追ったりはしていなかったと思う。    もう、ぜんっぜん分かんねぇわ  一旦考えんのやめよう。やめて、とりあえず今を楽しもう、少しでも。  せっかく知希といるんだから。  そう思った時、黒田がジャンケンの号令を上げた。

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