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 何も考えず手を出した。出してから、自分の手と周りを見た。  あ! 「ちょうどいいじゃん、2人負け。遠野と森下ゴミ捨てよろしくー」 「いえーい」とか言いながら、ゴミの入った白いレジ袋や空のペットボトルを次々渡される。それらを受け取りながら知希を見た。  あれ?  なんか、さっきまでより表情が明るい、気がする。 「えー」とか言ってるけど、口角が上がってる。  なんでだろ    まあいいか  知希が楽しそうならそれでいい  祭りの露店用の臨時のゴミ捨て場は割と近くて少し残念だった。 「桐人、こっち戻ってきてからお祭り来た?」  見上げてくる大きな瞳に祭りの照明が映っている。  やっぱり知希が1番可愛い 「いや、来てない。ほら、俺の方の友達は遊びの勢いが弱いから」  そう応えると「これからも全力で巻き込んでいくよ」と言われた。  そこにはもれなく黒田も付いてくるんだろうなと思ったけれど、「楽しみにしてるよ」と応えておいた。「知希と2人がいい」という本音は胸に仕舞い込んだ。  ゴミを捨てて戻ろうとしたところで公園の水道が目に入った。 「あ、知希。手ぇ洗いに行こうぜ」  もう少し、2人でいたい。 「う、うん」  そう言って付いて来た知希はいつもと違って無口だった。  心なしか頬が色を帯びている。  動きも少し、ぎこちない。  手を洗った知希が「あ」という顔をした。 「…タオル、カバンの中だー」  ああ、そういえば見たな。鞄に入れてるとこ。 「ほら、知希」  目の前にハンカチを出してやっても知希は動かない。  どうしたんだと思って顔を覗くと目を見開いた。 「なんて顔してんの、お前」  そんな可愛い顔してっと襲うぞ、マジで  なんて思いながら、固まったままの知希の手を拭いてやった。  一回りほど小さい知希の手。  体温高いな  いつまでも触れていたいのは山々なれど、そういう訳にもいかない。 「はい、できあがりー。戻ろっか、知希」  まだ固まっている知希の背中をぽんとたたいた。  暗くて微妙だったけど、知希の頬に朱が差していたように見える。  耳も、桃色…?  まあ、他人に手を拭かれるなんて恥ずかしいか、高2にもなって。  悪かったかな。怒ってはなさそうだからセーフか?  そんな事を考えていると聞きたくない声が聞こえた。 「おーい、遅ぇぞ、2人ともー」  俺たちの鞄を持った黒田が向こうから歩いてくる。  あの階段で待ってればいいのに。そう思ったけれど。 「あー、悪いな黒田」  知希の前で黒田といがみ合うのは憚られた。  こいつ、どこから俺らの事見てたんだろ。  そう思いながら鞄を受け取って、ちらりと見た黒田の目の奥に怒りの色が見えた。  手ぇ拭いてやったあたりは見てたな。  知希はお前のものじゃねぇから遠慮なんかしねぇぞ、俺は。  黒田の手から知希の鞄を引ったくった。黒田の眉間にぐっと皺が寄る。 「知希、ほら鞄」 「あ、うん」  知希が鞄に手を伸ばしながら怪訝な顔をしている。  マズったかな  つーか黒田、顔に出過ぎなんだよ 「あ、邦貴カバン、サンキューな」  知希に声をかけられた黒田が、ハッとしたように知希の方を向いてぎこちない笑みを作った。
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