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それぞれの方向に分かれて帰って行く自転車のライトが光る。
さっきの事が気まずかったのか、黒田は珍しく知希の横ではなく前を走っている。
俺はわざとゆっくり走ってみる。
知希はどうする?
俺か、黒田か。
どっちつかずの所を走っていた知希がスピードを落とした。
すーっと俺の横に並んで、ちらりとこっちを見た。
どどっと心臓が脈打った。喉のあたりがドクドクする。
たかがこれだけ自転車を漕いだぐらいで起こるはずもない息切れがして胸が苦しい。
知希にとっては大した意味なんかないだろうけど、俺にとっては一大事だ。
街灯の少ないエリアで良かった。顔が熱い。
後ろから「じゃーねー」と高橋の声が聞こえて、そういえばあいつもいたんだったなと思った。
自宅マンションへ曲がる角が見えてきた。
まだ帰りたくない。
もう少し、知希と並んで走りたい。
用なんかなかったけれど「コンビニ寄る」と言って走り続けた。
そんな事をしても、大して長い距離じゃない。
それでも一緒にいたい。
すぐに着いてしまったコンビニの前に、黒田が自転車を停めて待っていた。
「おっせーぞ知希。てか遠野なんで?」
お前ん家、こっちじゃねーだろ、という視線。
「コンビニ」
ウソつけ、という黒田の表情に、だから何だよ、と目で返してやる。
「じゃね、桐人」
そう言った知希の、はにかんだような表情と紅潮した頬。
あんな顔してる知希を黒田と帰すなんて…
「また」と軽く手を振って、奥歯を噛み締めながらコンビニの入口へ向かった。背後で「行くぞー、知希」と聞こえて、「うん」と言う知希の返事も聞こえて胃がギリッと痛んで吐き気がした。
無駄に店内を一周して、何も買わずにコンビニを出た。
知希たちが帰って行った暗い道をしばらく眺めた。
じわじわと、胸の中が黒く染まっていく気がする。
意識的に大きく息を吐いた。
落ち着け、俺。
そうだ、今日は俺からメッセージを送ろう。
いつも知希からだけど、今日は俺から。
そう、帰ってからすぐに。
そう思いながら自宅に向かって自転車を漕ぎ始めた。
空には白く細い月が出ていた。
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