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 4時限目が終わって、思った通り高橋が来て当たり前のように俺の前に座った。  購買から戻った知希がこっちを見て、ほんの少し眉を歪めた。手に持っているのはツナサンド、か? 焼きそばパンは売り切れだったか。  知希の席の前に、こっちも当然のように黒田が座った。  高橋が話しかけてくるのを半分聞き流しながら、知希と黒田の会話に耳を澄ます。 「お! 今日金持ちじゃん、知希。帰りどっか行く?」 「あー、違う違う。これ、晩飯代。お母さん、今日遅いから弁当でも買えってことで」    へぇ…  これは、誘ってみる価値ありなんじゃないか?  てゆーか、価値があるかないか、よりも誘う事ができるチャンス、と言うべきか。  黒田も知希を誘ってる。  高橋がいるから、とか言ってる場合じゃない。  高橋にスマホの画面が見えないように気を付けつつ、SNSをチェックしているふりをして知希にメッセージを送った。 ーー晩飯、うち来る?  先日「食べに来る?」と訊いた時は「いいの?」と言っていた。  あの気持ちは今も続いているんだろうか。  知希がポケットからスマホを出している。  あ、でもこれ、盗み聞きになるのか?  いやあの声のボリュームだったら普通聞こえるだろ。  どっちにしろメッセージはもう送ってしまった。  知希はどう受け取る?  どくん、と大きく心臓が拍動して、じわりと手のひらに汗が滲んだ。  スマホの画面を見た知希が、こちらを振り返る。  目が合うと、知希は下唇を噛んでスマホに目を落とした。  どっちだ?  どくどくと心臓が爆ぜているのを周りに悟られないように、密かに深呼吸をして息を整える。  手の中でスマホが震えた。 ーーー行きたい。いいの?  よし!  喋り続けている高橋に適当な相槌を打ちながら、机の下で知希に返信をする。 ーーいいよ。  黒田が教室に戻ってきて、知希は慌てた様子でスマホをポケットに入れた。  戻ってきた黒田はまた知希の前に座って、誰か俺の知らない彼らの友人と廊下で会ったという話をしていた。  昼休み終了の予鈴が鳴って、ようやく高橋が席を立った。「またね」と言って去っていく背中をほっとした気分で一瞥して、再びスマホに目を落とした。 ーーまっすぐうちに来る? それとも一旦帰るか?  とにかく早く完全な予定にする。変更できないように確定要素として話を詰めてしまう。  やっぱり気が変わった、とか、ましてや黒田の誘いに乗ることにした、なんて事にならないように。 ーーーそのまま行く。  よしよし…  知希からの返信を食い入るように見て、 ーー分かった。  と返信をしたところで教室の戸が開いた。  授業中にスマホをいじってる訳にもいかない。  続きは休み時間だな。  誰かに、特に黒田に気付かれないように、絶対に口には出さない。

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