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 ソファに並んで座って、もう特に喋る事もなくなって、時間が止まればいいのになんてありがちな事を考えていた。  殊更ゆっくりと、アイスをすくう。 「一口ちょうだい」  え?    驚いて隣に座る知希を見た。言った知希本人もなぜか目を丸くしている。  心臓はまた、忙しなく打ち始めた。  こんな事、した事ねぇぞ  そう思いながら「ほら」とスプーンを知希に向けた。  大きな瞳が瞬きをしながら俺を見て、桜色の唇を、開く。  赤い舌が、覗く。  思わず喉が鳴りそうになって、ぐっと堪えた。  開いた口にスプーンを入れてやると、唇が閉じていく。  自分の心臓の音がうるさい。  スプーンを、ゆっくりと唇から引き抜いた。  ただ、バニラも食べてみたかっただけ、だろう。もちろん。  取り箸とか気にしなくていいかもな、っていう話をしたところだし。  そう思うのに欲が出る。 「…お返しは、貰えんの?」  ダメもとだ。バットは振らなきゃ当たらない。 「あ…、うん」  マジか  少し覚束ない手付きで知希がチョコアイスをすくって、遠慮がちにこちらに差し出してくる。  近付いたら、心音が聞こえてしまうんじゃないか。いや、そんな訳ないだろう。  そんな事を考えながら知希の持っているスプーンを咥えた。  そのまま、ちらりと知希の顔を見た。  耳まで赤くなってるじゃん  勘違いしそう、マジで  スプーンから唇を離して自嘲気味に笑う。  チョコアイスの味は、正直よく分からなかった。  でも、さっき知希の口に触れたスプーンですくったアイスは、それまでよりも甘く感じた。  女の子じゃないんだから「送って行くよ」とも言いづらくて、コンビニに行くと言って一緒に家を出た。知希は終始俯きがちで、あまり喋らなかった。  あの祭りの日みたいに。  知希の家の最寄りのコンビニまで行って、帰って行く自転車の後ろ姿を見送った。  次は中華か。次っていつだ。  それより次、大丈夫なのか、俺。  自分の行動がこんなに心配になった事なんかなかった。  あいつ、距離が近いんだよ。  肌が触れるほど近付いてくるのに、触っちゃいけない。  拷問だな、これは。  コンビニ限定アイスでも買って帰ろう。  ちょっと自分を甘やかしてやんないとやってらんねぇ。  でもたぶん、アイスを食べながら思い出してしまうんだろう。  桜色の唇と、赤い舌。  マジでキツいな、と思いながら俺はコンビニの白い光の中に入って行った。  

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