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第5話
「あらやだ霧咲先生、聞いてらしたんですか?榛名先生ってば可愛いんですよー」
「ほう?」
「ちょ、ちょっと冨永先生!」
俺が霧咲先生の恋人の有無を気にしていたことを言われるのか、それとも冨永先生を気にしていたことを言われるのか、どっちなのかわからなくて俺は必死に冨永先生を止めた。
「ひ、秘密ですから…!さっきのことはどうかっ」
「え~、霧咲先生に自慢したかったのに」
「自慢…ですか?」
霧咲先生のりりしい眉毛がピクッと動いて、眉間に皺を作った。
「なんでもありません!!大したことじゃありませんから気にしないで下さい!!」
俺がそう言うと、霧咲先生は少し目を細めて、俺と冨永先生をジトっとした目で睨んできた。
美形なのにこういう顔もするなんて、なんだかとても意外で……少し可愛い、なんて思ってしまった。
「俺だけ仲間外れですか…」
「まーまー霧咲先生!そうだ榛名先生も、今週金曜日飲み会来られます?新任の先生達の歓迎会!私幹事組なんで、出欠確認させてください」
冨永先生は、実に華麗に話の方向転換をした。
………すごい。
「そうですね。榛名先生が行くなら行こうかな」
「え、俺ですか!?……あ、じゃあ……行きます…」
な、なんで俺が行くなら…なんだろう。
他にも仲の良さそうな先生は沢山いるのに…。
すごく嬉しいけど!!
「霧咲先生、榛名先生が可愛いからってあんまり構うと嫌われちゃいますよ?」
「好かれる前に嫌われるのは嫌だな…。いや俺もね、冨永先生みたいに榛名先生と共通の秘密を作りたいなぁと思いまして」
ええっ!!?
そんな、嫌うなんてことがある筈ないのに…!!
好かれるのはもう既に好かれていますけどね。
「あら。霧咲先生が秘密って言うとなんだかヤラシイですね…」
ん?
「分かります?」
「それはもう~っ!」
ニヤリと妖しげに笑う霧咲先生。
そして、そんな霧咲先生に悶えている冨永先生。
一体何の話をしてるんですか………!
「じゃあ、お2人とも出席するということで!霧咲先生が来られるなら、校内の女の先生の参加率はほぼ100パーセントっと…」
「………」
公の飲み会の時、いつもいつも誰か女の先生が隣にいてお酌をされている霧咲先生。
俺も今回は一度くらい、霧咲先生にお酌ができるだろうか。
それすらも分からないのに、人気者の霧咲先生と共通の秘密を作るなんて……そんな夢みたいなことが出来るはずがない。
だって、恋人がいるんでしょう?
「はあ………」
「あれ、榛名先生、もしかして飲み会が嫌いなんですか?」
「あ、いいえ違います…!」
また無意識にため息をついてしまっていた。
霧咲先生本人に心配されるなんて………
なんか今日は朝から散々、ついてない。
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