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第11話
「本当に本当に、すみませんでした……」
なんとか心を落ち着かせた俺は、霧咲先生に土下座で謝っていた。
すごく古典的だけど、他に謝り方が思いつかない。
「そんなに謝らないでください、同僚が潰れてたら介抱するのは当然ですよ。ほら、顔を上げて」
霧咲先生が俺の肩をぽんぽんと叩き、その後脇の下に手を入れて抱き上げるように顔を上げさせた。
このまま酔いに任せて抱きつけたら…、なんてとんでもないことを一瞬だけ考えたけど、今はそんな場合じゃない。
猛省しなきゃ………。
「富永先生にも合わす顔がないです……」
「それは…大丈夫じゃないですか?榛名先生を俺に預けた時、だいぶニコニコしてましたから」
「え、ニコニコ…?……そんなに無様だったんですね、俺……恥ずかしいです、もうそんなに若くもないのに無茶な飲み方してしまって…」
「何でそんなに無理して飲んだんですか?」
「………」
理由なんて言えるわけない。
霧咲先生を取り巻く女の先生達に嫉妬したから、なんて。
まるでやけ酒そのものだ。
帰って家で1人で飲めばいいのに。
「………言えません」
「どうして?教えてください。俺は誰にも言いませんよ?ここだけの秘密にしますから」
秘密………。
「それでも………無理です」
ただ、俺も霧咲先生にお酌がしたかった。
乾杯だけでも充分なのに、そんな高望みをするべきじゃなかったんだ。
一緒に宴会場まで行ったし、今はこうして一緒にいるのに。
それでもどうしても、どーしても俺は霧咲先生にお酌がしてみたかったんだ。
好きになってから2年間、ずっと遠くから見つめているだけだったこの人に………。
馬鹿みたいな、こだわりだ。
でも自分が酒に飲まれたら、意味ないだろ………。
「う………」
なんだか自分がひどく情けなくて、思わずじわりと涙が浮かんできた。
泣いたりしたら、もっと霧咲先生を困らせてしまうのに………。
「榛名先生、泣かないでください」
「…すみませんっ…」
ああもう、俺のバカ。
せっかくお近付きに……というか、仲良くなれそうだったのに。
こんな弱くて女々しくてかっこ悪いとこ見せて、酔って潰れて迷惑かけて、もう月曜日からは無視されたっておかしくない。
「本当に、ごめんなさい……俺……っ」
嫌われたくないのに………涙が止まらない。
ぐいっ
………………え?
霧咲先生に再び顔をあげられた。
今度は両手で顔を挟まれた状態だ。
そしたら霧咲先生の顔がいきなりアップになったかと思うと、……
「俺は酔い潰れて弱ってる人を襲う趣味はないんですが………そんな可愛い顔を見せられたら、我慢できませんよ」
ペロッ
顔を………舐められた。
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