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第22話

ガチャ… 「!榛名先生…」 リビングに現れた俺の存在に気付いて、霧咲先生がこっちを向いた。 けど俺はその顔を見ようともせずに、ばっと頭を下げた。そして、捲し立てるように言った。 「昨日は沢山迷惑をおかけして本当にすいませんでした!!」 「…え?」 霧咲先生の言葉は、聞きたくなくて…。 「俺、ひどく酔ってたんです…昨日のことはどうか忘れてください、お願いします!」 「榛名先生、それは…」 「ほんとにごめんなさい…!すぐ帰りますから」 「榛名先生!」 後ろから霧咲先生の声が追いかけてきたけど、俺は急いですぐそばの玄関で靴を履いて、逃げるように霧咲先生の部屋を出た。 鞄は玄関にそのまま置いてあったから、忘れ物は無いはずだ。 「………」 (…気持ち悪い…) ズル… 俺は、乗り込んだエレベーターの中でうずくまった。 二日酔いのせいでもあるだろうけど。 昨日のことを思い出すと、頭が痛くて吐き気がする。 好きだって気持ちに任せて身体ごと突っ走った、自分の身勝手さに。 あと、丁寧に拭き損ねた下半身にも。 (あれ…?) どうして涙が出るんだろう。 俺には泣く資格なんて、無いはずなのに。 むしろ今よっぽど泣きたいのは霧咲先生のほうだろう。 酔っぱらって男を抱いてしまったとか、霧咲先生の人生の汚点でしかないはず…。 しかも中出しキメてるし。 「………っ」 たとえマチガイでも、好きな人に抱いて貰えて死ぬほど嬉しいはずなのに。 でもその代わりに、俺は2年間抱いていた恋心の行き場を完全になくしてしまった。 「うぅ……っ」 霧咲先生のことは、もう諦めないと… むしろ、学校自体辞めたほうがいい? もう俺の顔なんて見たくもないんだろうな。 応援してくれた富永先生にはなんて言おう。 そもそも応援してくれたってのが俺の勘違いかも。 だって普通に考えて、ライバルの応援なんかしてくれるわけない。 富永先生、既婚者だけど…。 「あの…大丈夫ですか?」 「あ、すいません!」 いつの間にかエレベーターは一階で停まってドアが開いていて、その上待っていた人に心配までされてしまった。 俺は慌てて立ち上がって涙をぬぐうと、その人を追い越してマンションの自動ドアをすり抜けた。 駅までの場所が分からなかったので、タクシーを捕まえて、さっと乗り込む。 情けないことに涙と嗚咽は帰るまで止まらなかったけど、無口な年配の運転手はずっと黙っていてくれたので、正直すごく助かったのだった。

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