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第28話

堂島くんは俺の身体を見下ろしたまま、微動だにしない。 どうしたの?って聞くのもおかしいけど、何故かほっとくことはできなくて。 もしかしたら俺の身体が想像と違いすぎて、やる気が失せたのか。 それなら有難いんだけど…。 「ど…堂島くん?どうし…」 「榛名先生、恋人いんの?」 「え?」 「どーりで…俺みたいなガキのことなんか、眼中にあるはずねーよな…」 俺に恋人? 何でいきなりそんな勘違いしてるんだろう。 でも、勘違いしてくれた方がいいのか?この場合。 「すっげぇキスマーク、身体中にあんだもん。恋人に愛されてんだね、先生」 「は…?」 そう言われて、俺は自分の身体を見える範囲まで首を曲げて見下ろした。 (!?!?) 「ななっ…何これ!!」 何で気付かなかったんだろう。 シャワーも浴びたのに、自分の、自分の身体に対する無頓着さに驚いた。 あと、俺が見た光景にも。 俺の身体中、見える範囲にも…キスマークと思われる赤い痕でいっぱいだった。 「榛名先生気付いてなかったのかよ?ははっ、めっちゃコトに夢中じゃん、それ」 「や…いや、その、これは…!」 付けたのは、霧咲先生に間違いない…よな? え、何でこんな、まるで自分の所有物みたいな証を俺に? 俺のことを好きだって言ったのは、酔ってたからじゃないのか…? ひとつだったら誰かと間違えてたって理由も思いつくけど、こんなに沢山付けられたら… (…霧咲先生…) 「泣くなよ榛名先生、ごめん…ひどいことしようとした、俺。…恋人のこと、すげー好きなんだな」 (俺…泣いてるの?なんで、涙なんか…) 堂島くんは俺の手首を戒めていたネクタイを外してくれた。 俺を机に座らせると、タンクトップとワイシャツをもとに戻してくれた。勿論、はじけ飛んだボタンは直らないけど…ちゃんと拾ってくれて。 そして俺は、堂島くんにちゃんと自分の気持ちを正直に話した。 「堂島くん…君の気持ちにこたえられなくてごめん。生徒としてしか見れなくて…ごめん。俺にはずっと、すごく好きな人がいるんだ…」 「まだ恋人じゃねーの?キスマーク付けた人」 俺は素直に頷いていた。 すると何故か、更に涙があふれ出た。 堂島くんは俺の前に立ったまま、10歳も年上の俺の頭をまるで子供にするみたいに撫でた。 「榛名先生…相手の人、すっげぇ先生のこと好きだと思うよ。じゃねーとこんな沢山キスマークつけねーって。先生って変なとこで意地張るし、自分が素直になってないだけなんじゃねえの?」 「………」 生徒に図星を指されて諭されてる…。 ああ、俺ってホントにカッコ悪い。 でも、本当にそう…? 霧咲先生も、俺のことが好きなのかな…? 綺麗さっぱり忘れてしまおうと努力した金曜の夜のことを思い出したら、ぶわっと身体が熱くなった。 「じゃあ俺、先に帰るから。榛名先生も、暗くならない内に帰れよ」 「…うん、気を付けてね」 「気を付けるのは先生の方だって!…まじで、」 「はは…」 最後のは笑えない冗談だったけど、俺は笑った。 未遂で終わった、彼の行動を許すために。 キスはされてしまったけど…。 (有難う…堂島くん) 何故か、彼に感謝すらしてしまった。

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