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第30話

霧咲先生の部屋の前に着くと、震える右手をなんとかコントロールしてインターホンを鳴らした。 すると、霧咲先生は数秒も待たずにドアを開けてくれた。 ガチャ! 「あっ…」 「榛名先生、こんばんは……って、どうしたんですか、その服は!?」 霧咲先生は目敏く、俺のボタンがちぎれたワイシャツに気付いたらしい。 ネクタイでなんとか誤魔化してはいたけど、そりゃじっと見たら気付くか…。 「えっと、これは…何でもないっていうか…」 「何でもないわけないでしょう、入ってください!」 「え、あっ!」 霧咲先生はやや強引に俺の腕を引っ張り、問答無用と言った感じで玄関の中に引き入れてドアを閉めきった。癖なのか、丁寧に鍵まで。 そして俺のスーツの前を開けて、破かれたワイシャツをまじまじと観察し始めた。 「これ…糸が千切れてますよ。間違いなく破かれたあとですね。…誰にやられました?」 「…あ、あの…」 「言ってください。俺はそいつを許しません」 言えない…自分のクラスの生徒に破かれたなんて。 ていうかそんなこと、もう今の俺にはどうでもいいことなのに。 でも霧咲先生は、かなり怒っているようだ。 俺にそんなことをした相手を、今にも殴りかかりそうな勢いで…。 ドクン… 胸が、言い知れぬ感覚で熱くなった。 「相手をかばっているんですか?…もしかして相手は、生徒ですか?」 「!」 俺が黙っていたせいで、余計に霧咲先生は苛ついたようだった。そして見事に図星を刺された。 「可愛い生徒になら、何をされても庇うんですか?…貴方は教師の鑑ですね、榛名先生。そして…同僚にも言えないようなことをされたんですか?」 「ち…違います!何も、何もされていません!」 「じゃあ、何で…ンっ」 俺は自分でも吃驚するような大胆な方法で、霧咲先生を黙らせた。 ………自分の唇を、霧咲先生の口に押し付けたのだ。 なんでそんなことしたのかって、身体が自然に動いてしまっただけだ。 「…………」 さすがに霧咲先生も俺の行動に驚いたのか、黙りこくった。 黙らずを得なかったのかもしれないけど…。 それでも、無理矢理剥がされることもなかった。 俺はゆっくりと唇を離すと、霧咲先生の至近距離でぽつりと言った。 「……キスマークが…」 「え?」 「霧咲先生の付けてくれたキスマークが…、土壇場で俺を守ってくれました」 「………」 自分の行動を意識すると、顔から火が出そうだ。 それでも、もう勢いだ。 「恥ずかしかったです…、生徒に、あんな大量のキスマークを見られるなんて…」 「…榛名先生」 「俺、霧咲先生のことが、好きです…。一昨日は酔っぱらって…逃げてしまってすみませんでした…」 今日は告白するつもりはなかったのに…。 何故かまた溢れてくる涙とともに、俺は本心を吐露した。

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