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第8話

 祭壇の上の太い蝋燭の炎が、心もとなく揺れる。 「……何があるんだ、そこに」 「覗いてみれば分かりますよ。煉獄の様子が」  ロイドは眉を寄せた。 「煉獄の様子?」  煉獄とは、地獄のことか。  そんな子供だましなと思いながらも、ロイドは祭壇を迂回して、壁と祭壇の間を歩み、男が指し示す壁の隙間まで来て立ち止まった。  何の変哲もない、壁にできたヒビだ。  一番開いているところは、指が入るくらいの隙間が開いている。ヒビの中では比較的大きい方だろうが、それでもどこにでもあるヒビ、ただそれだけだ。  そのヒビの隙間を覗きこんでいったい何があるのかと、疑いの眼差しを聖職者の男に送れば、男は両方の口角を少しだけ上げて、ゆっくりと頷く。 「大丈夫、何もしないから、見てごらんなさい」  ロイドは隣の聖職者を意識しながらも、ぎこちなく床に膝をついた。  そして壁に顔を近づけ、その隙間に左目を近づけて中を見た途端、え、と小さく呟いた。  赤い――これは炎か。  炎がまるでガソリンを撒いたかのようにあちこちで燃え上がっている。  そしてその炎に囲まれたいくつもの水たまりが見えた。その水たまりはいくつもあって、驚いたのは、人々がその水たまりに首まで浸かって苦悶の表情を浮かべていることだった。  人々は首を水の上に出すのがやっとという具合で、浮きつ沈みつしながら、時に溺れ、時に迫る炎に焼かれ絶叫している。  そしてそれらの人を取り囲んで、恐ろしい顔をした人型の何かが、人間の頭を棒か何かでつついて沈めようとしていた。  溺れかかる人々の表情だとか、形容しがたい恐ろしい人型の何かを見ていられなくなって、ロイドは思わず壁の隙間から目を離した。 「ッ、これ……」  言葉を失っていると、聖職者の男が言葉を継いだ。 「煉獄の様子です。……地獄とも言いますね。ロイド、あなたは地獄を信じますか」 「これは、どういうことだ」  壁の向こうで演劇でもされているのか。それにしては、やけにリアルだ。そうでなければ、撮った映画のフィルムでも続けざまに流しているのか。 「この教会は、壁の向こうに煉獄の様子が見えるのです」 「そんな、馬鹿な……」 「嘘だと思うのなら、指を隙間に入れてごらんなさい」  言われた通り、ロイドは壁の隙間に指を差し込んだ。瞬間、まるで炎に焼かれるような熱が伝わってきて、反射的に手を引いた。 「熱ッ……」 「年中公開しても良いのですが、さきほどの子のように、中には刺激が強いと感じる人もいる。それで、私が一組ずつ丁寧に説明でき、公開の機会も絞ることも目的として、諸聖人の日と死者の日に限って公開しているのです」 「今日と、明日の二日間……」 「そうです。明日は、この煉獄にいる者たちにとって重要な日になります。地獄の責め苦から辛くも逃れた魂が、救いを求める日、それが11月2日の死者の日です」

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