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8月5日/夜/冥賀トンネル前④
夜は交代で見張り番。最初は板尾、次が茶倉、最後が俺。順番はじゃんけんでフェアに決めた。どのみちテント内は雑魚寝にゃ狭いし、三人横たわりゃ満杯になる。
天井に張ったロープにランプを吊り、寝袋に潜って休む。帳の向こうからはうるさい位に虫の声が聞こえていた。
「キャンプみたいでワクワクしねえ?」
「はよ寝ろ。仮眠とらな後辛いで」
茶倉が寝袋にくるまり背中を向ける。頭上にはアラームをセットしたスマホが置いてある。
「板尾のヤツ大丈夫かな、結構飲んでたけど。間違えてテントん中に小便にしにきたりしねえよな」
「……ぐー」
「早っ」
もうちょっと構ってくれよと口を尖らすが、起こすのも気が引ける。仕方なく仰向け、ネットサーフィンで時間を潰す。冥界トンネルに来る前に可能な範囲で情報は集めてきたものの、完璧とは言えない。
「冥賀トンネルで検索してもヒット少ねえなあ」
むしろ悲劇的な鉄道事故として、戦中戦後史を扱ったサイトに取り上げられてる回数の方が多い。守屋のじいちゃんの話を思い出し、心ん中で手を合わせる。
「実際人も消えてんだよな……」
守屋のじいちゃんの妹は死んでる。野崎さんの友達と八神のばあちゃんは生死不明。前者に至っちゃ冥界トンネルで消えたかどうかもわからねえ、ただの憶測で妄想だ。片や八神はトンネル内で列車に乗った祖母を目撃している。
ゲゲゲの鬼太郎における幽霊電車のエピソードは、乗客全員が死人と妖怪だったってオチが付く。
八神のばあちゃんがあの世行きの列車に乗っちまったんなら、もう手遅れじゃねえのか。
窓から飛び下りるとか非常停止ボタン押すとかして途中下車できるもんなのか?
不安と疑問が綯い交ぜとなり、寝返りを打った拍子に閃き、オカ板まとめブログを呼び出す。
「あった、きさらぎ駅」
肘を立て上体を起こし、スマホ画面をスクロールしていく。
きさらぎ駅とは2ちゃんねるに投稿された実況形式の心霊体験で、スレ主の葉純と名乗る女性が、新浜松駅から乗りこんだ遠州鉄道の電車に違和感を覚えるところから始まる。
葉純が乗り込んだ電車は普段と違いなかなか停まらず、伊佐貫と彫られたトンネルを抜けたのち、草原の只中の無人駅に到着する。
その駅こそかの有名なきさらぎ駅。
プラットフォームに乗務員は不在、携帯は圏外。周囲には人家も見当たらず、困り果てた葉純は線路に飛び下り、歩いて帰ることにする。
すると鈴や太鼓の音が響き渡り、祭囃子に追い立てられるように逃げる途中、地元の人間が運転する車に拾ってもらえたそうなのだが……。
ヒッチハイク成功と入れ違いに書き込みは途切れ、葉純は消息を絶っている。
その七年後、都市伝説をまとめたブログのコメント欄に葉純を名乗る人物が現れる。曰く、七年ぶりに現実世界に帰還を果たしたというのだ。
きさらぎ駅を端緒とする実在しない駅群はそのまんま異界駅と呼ばれている。
きさらぎ駅と並んで有名なやみ駅かたみ駅他、架空の駅ではあるが幽霊電車に登場した臨終駅・火葬場駅・骨壺駅もこれにあたるっぽい。
「列車の行き先がきさらぎ駅ってのは出来すぎかな」
茶倉の考察を聞いてみたい。が、寝ているので遠慮する。それにしても静かだ。
頭の後ろで手を組み、ランプが仄かに照らす天井を仰ぐ。
「くそ、全然寝れねえ」
原因はわかってる、距離が近すぎんのだ。すぐ横で眠る茶倉の甘やかな息遣い、シャツの襟刳りから惜しげもなく覗く華奢なうなじ、懐かねえ猫みてえに丸まった背中を意識しちまい、目と股間がギンギンになる。
規則正しい呼吸に合わせ上下する肩甲骨を睨み、片肘付いて乗り出す。
「んー……」
寝袋ん中でごそごそ動き、だしぬけにこっちを向く。不意打ちに心臓が止まる。
茶倉の寝顔は物凄くレアだ。除霊ん時は大抵俺が先にバテ、コイツは涼しい顔で身支度を整えてる。
「おーい……」
小声で呼びかける。反応なし。至近距離で寝顔を拝み、すっきり整った目鼻立ちに見とれる。もっと近く、さらに近くへ這いずり、かすかに開いた唇が紡ぐ吐息に唾を飲む。
完璧な弧を描く瞼。
黒く濃く長い睫毛。
クソ生意気な覚醒時との落差も手伝ってか、鋭く冴えた眼光や憎たらしい表情が引っ込んだ顔は川床に削られ丸くなったガラスに近く、あらゆる感情が濾過された透明感を帯びていた。
茶倉練を茶倉練足らしめる、傍若無人な虚勢が抜け落ちた素顔。
ランプの笠を捻って明かりを消したら最後、夏の宵に消えちまいそうに儚げで。
何だこの気持ち。むらむらする。茶倉の寝姿があんまりにも無防備で、日頃おちょくられてる仕返しをしたくなる。
きょろきょろ辺りを見回す。板尾は外で待機、テント内には俺と茶倉だけ。見咎められる心配ねえ。
寝袋のジッパーを下げて抜け出し、茶倉の胴を跨ぎ、慎重に顔を近付けていく。
『隣の席の女子が烏丸くんいいよねって噂してた』
一年前なら舞い上がってた。今はそんなに嬉しかねえ。この一年で俺を取り巻く環境は激変し、除霊の建前で茶倉とヤりまくるのが日常になっちまった。
霊姦体質に目覚め、心と体が変化した。
俺はケツを掘られる悦びに目覚め、体の隅々まですっかり開発され、オナニーの時も前だけじゃ足りずアナニーにドハマりし、今だってコイツが隣にいるだけでむらむらが止まんねえ。
「なんで平気なのお前」
ドキドキしてんの俺だけ?あんだけやっといて下心ねえの?
悪霊を剥いで瘴気を浄化するのが目的なら、前戯も後戯もすっとばしてただ突っこみゃいいじゃねえか。
苛立ちと劣情が絡まった衝動に駆り立てられ、右手に嵌めた数珠と寝顔を見比べ、薄い唇に唇を重ねる寸前―
「夜這いか」
「ッ!!」
してやったりと片目が開く。ふてぶてしい含み笑い。次の瞬間寝袋のジッパーが駆け下り、逆に押し倒されていた。
「鼻に蚊がとまってたから追っ払おうとしただけで断じて寝込みを襲ったりは」
「ぬかせキス泥棒」
「未遂!」
しまった。
慌てて口を塞ぐも既に遅し、あっさりマウントをとった茶倉が宣言する。
「子供だましの火遊びじゃ物足りんか」
「やめ、ッぁ」
ランプが揺れる。影が蠢く。俺の首筋を吸い立て、片手でシャツを捲り、痩せた下っ腹を撫で擦る。
「表に板尾がいんだぞ」
「吹っ掛けたんはそっちやで」
「さっさと下りろ、バレちまったら」
「声出さんとき」
どかそうと腕を突っ張りゃあっさり払われ、振り落としにかかりゃ急所をくすぐられ、絶体絶命のピンチに直面。下手に暴れりゃテントごと潰れちまうと危ぶみ、唇を噛んで耐える。
「我慢できん?」
「む~っ、ん゛~っ!」
俺の口を塞いで首をなめてくる。続いて乳首に移り、先っぽをいじくり回して唾液を捏ねる。
板尾にばれるかもしれねえ緊張が異常に興奮と感度を高め、股間が固さを増していく。
「ダチの寝顔オカズにヌいたんか、変態」
「してねえよンなこと」
「毎晩一人エッチしとるくせに」
声を潜めて囁き、ほんの僅か手をずらす。それに同じく小声で返し、熱く疼く素肌を這い回る手に呻く。
「ええで。付き合うたる」
「ッ、ふ、やめ、んん゛ッ」
よれたシャツが首元で丸まり、いやらしく尖った乳首が露出し、脇腹を汗が伝い落ちる。
「昔の人が大勢死んだ場所でさかるとか不謹慎だろ!」
「お祭り気分で花火持ち出したヤツに言われるとムカツクな」
「アレは板尾を元気付けようとしてだな」
「かさぶた剥がしとったやん」
「空回りは認めます」
ちょっとだけ落ち込む。しかしまあ、下半身の暴れん坊がおさまり付かねえ。生理現象のジレンマを見通し、ランプの灯を浴びた茶倉がにんまり笑む。
「テントん中でテント張っとる」
「だじゃれか」
「一発ヌかなすっきり寝れんやろ、手伝ったる」
「脱がねえの」
「蚊に食われとうないし」
「ずりーの」
「俺の肌は安うない」
忙しげに揺れるランプの下、ズボンのチャックを開けペニスを掴む。
「待てよ板尾が」
「トンネルの方におるさかい聞こえへんよ」
「だけど」
「ばれてもかまへん」
俺の脚をこじ開け、カウパーと唾をまぶした指で後孔をほぐす。
「噂んなったら」
「週一でヤッとるセフレってことが?」
「恥ずかしくねえのかよ」
「せやな、こっち目当てのお客がぎょうさん押しかけてくるかも」
「てめえ!!」
カッとして胸ぐらを掴む。温度差のある睨み合いを断ち切り、後孔に剛直が押し入ってきた。
「ッぐ、ぁっふ」
「よォ締まる。声聞かれるかもて興奮しとるん?」
「茶倉やめっ、ぁっぐ、ンっふ、ぁっは」
「暴れるな。テントの下敷きになりたいんか」
次第に声が潤んで抵抗が弱まっていく。気持ちよさに腰が上擦り、抽送に合わせて動く。
「っふ、んっぐ」
俺の腕を持って首に掛け、向かい合わせに起こす。いわゆる対面座位。突き上げの律動が速まり、腰が勝手に跳ね回る。
「奥まで届くやろ」
「んッ、んッ、んッ」
「コリコリの前立腺当たっとんの、ちゃんとわかるで。離さんように食い締めて体は正直やね」
羞恥と焦りで頭が沸騰する。どうかばれませんようにと祈る一方、俺の腰を支え貫く茶倉に抱き付き、無我夢中でケツを弾ませる。
「もっと奥、そこッすげっ、ぞくぞくしてァあっあ、熱いの止まんねッもっ出る、ィっちゃうっ」
頭が真っ白に爆ぜ、体内にぬるい粘液が射出される。同時に俺のペニスから粘っこい白濁が飛び散り、背中が大きく仰け反った。
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