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it’s rubbing off on me(2)
耳元で甘く囁いて、首筋にキスを落とす。
さっきまで横断歩道の白線を気にしていた彼はもういない。車も自転車も人も、俺たち以外の存在が何もなくても赤信号では必ず止まる「きちんと」した彼だから、周りの様子は関係なく公共の道路でこうして触れることは許せないはずなのに、スイッチが入ってしまうと何の抵抗も示さなくなる。
最近は自習の時間に二人で教室を抜け出すこともできるようになったくらいだ。学校で体に触れることだって許される。
俺が、彼を変えた。
校則よりも短く切られた癖のない黒髪に、きれいには整えられていない眉毛。カッチリした銀縁の眼鏡。いかにも優等生な彼のちょっとした反応が面白くて、もっともっととちょっかいをかけているうちにコロリと俺に落ちてきた。眼鏡の奥のうるんだ瞳が誘っているようだし、汚い言葉を一切吐かない口からは、信じられないくらい甘い声を漏らす。
「俺のこと好き?」
「……好き、」
「どれくらい?」
「そんなの、」
「ここでキスしてみせてよ。誰もいないよ?」
「……っ」
震えを誤魔化すように唇を噛みしめる。それでもキスをしないという選択肢はないから、するための覚悟を温めているのだろう。大きく三回ゆっくりとした呼吸をして、彼は背伸びをすると俺の首に手を回した。触れるだけの優しいキスをした後に、上唇をはむりと自分の唇で挟み、物足りないけれどここではこれで精一杯とそういう顔をする。
初めの頃はちゅっと軽いキスを頬にしてくれるだけだったのに、今ではもうこんなにも大胆なことをしてくれるようになった。彼に舐められて湿った唇を自分で上書きするように舐め、物足りないのなら俺からしてあげると噛みついた。
◇
「桃李 、お前最近付き合い悪くないか?」
「俺も思ってた。新川 とばっかりつるんでるじゃん。今立ち上がったのもこの自習時間に新川とどっか行くつもりだろ」
「二人で何やってんだよ。勉強でも教えてもらってんの?」
真面目くんになるつもりかよと、これまでわりと一緒にいたメンバーが俺を笑った。
「新川もさぁ、すっげぇ優等生じゃん。でも最近桃李となら自習時間抜け出してるし、かなり変わったよな」
変わった、とその一言で頬が緩む。でもどう変わったのかなんて本当のところは俺しか知らないのだ。優越感がたまらない。
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