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it’s rubbing off on me(3)

「たまたま前に隣の席になって話し始めたら面白いヤツだって思ったんだよ。意外な一面が見られたり」 「意外って何?」 「さぁ、何でしょうね」 「でも意外っていえばお前もだよ。校則に違反しないギリギリのところで染めてたのに、最近染めてないだろ。プリン頭になってる。前はすぐ染めに行ってたくせに、変わったな?」  何でしょうねと、そう言って笑って見せて席を離れようとしたとき、その足を止めてしまうような言葉を後ろから投げられた。俺が変わったって、何が? 「……金がないの。あったら染めてるよ」  振り返らないままで手を振り、少しだけ動揺しながら新川の席へと向かった。何も言葉を発していないのに、何かを期待したようにはにかんだ新川がそっと立ち上がった。  学ランの中に着ているシャツの一番上のボタンが既に外されていて、教室を出るとすぐに俺の制服の袖を遠慮がちに握った。  ほら、変わったのは新川のほうじゃあないか。  俺は別に楽しいからこういう付き合いをしているだけで、あれだけ「きちんと」している新川が俺の前ではこうなってしまうことが意外だろう? 「ねぇ、ちょっと眉を整えたでしょ」 「えっ、」 「真ん中と先のほう、少しいじった?」 「……そんなに分かるか?」 「いや、俺だから分かるんだろうなってくらい」 「そう」  慣れないことはするもんじゃあないと、くすりと笑みをこぼした。やらなくてもいいこと、これまでの彼ならやらないであろうこと。他人から見て小さいことでも彼には大きなことだろうに、それでもやれてしまうんだ。 「新川ってさぁ、俺のことになると自分の中の決まりごととか校則とか破ったりしちゃうところあるよね」 「え?」 「眉だって俺がいなかったら剃ってないでしょ。俺と過ごし始めて容姿とか気になり始めたの?」 「……えっと」 「変わりたいってことは、それだけ好きってことなんだよね。お前のそういうところ可愛いと思うよ」 「俺のことを可愛いだなんて、君は変な奴だよ……」  ぼそりと呟いた彼の手を握り、あまり生徒が利用しないトイレを選ぶと、奥の個室に入った。ドアを閉めた途端に扉に押し付け、強引に口付ける。彼はすぐにとろんとした表情になって、甘い声を漏らした。

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