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好きになるのに理由がいるの?(5)
「滝 くん……」
集中しすぎてホームルームを何一つ聞いていなかった上に、終わったことにも気づかず、あげく彼が俺の目の前にいるこの状況も理解できていない。
彼を前にして、シャーペンを握る手に力が入る。ふぅ……と、一つ大きく深呼吸をした。
「お前、岸先生の話を最後まで聞いてなかっただろ」
「……え、」
「隣が休みの滝と奥原は一緒にやるようにって、先生そう言ってたじゃん」
「な!」
「な! って……、そんなに驚くこと?」
強く握っていたはずのシャーペンが手から滑り落ち、彼の足下へと転がっていった。俺の動揺っぷりに呆れつつも笑って、彼がそれを拾ってくれた。
もうこのシャーペンは使わないで箱に入れて大切に保管しようと、人には言えない気持ちの悪いことを考えながら受け取り、そっと筆箱の中へ入れる。
「ホームルームも聞いてなかった? そんなに必死だったのか」
「……うん」
滝くんは松島くんの席に座ると、体を俺のほうへと向けた。CDを返して以来ずっと彼と話していなかったのに、久しぶりに会話をすることはもちろん、こうして近い距離に彼がいることに吐きそうなほど緊張してきた。
「奥原って数学苦手?」
「うん……」
「遠くから見てても慌ててるのが伝わってたもんな。松島が休みだから一人でどうしようって焦ってたんだろ? だから岸先生の話を聞いてなかったし、ホームルーム中もずっと問題しか見ていなかった」
「……その通りです」
何も言い訳ができない。少しも違わずその通りでしかない。だからわざわざクラスの離れた神井に助けてもらおうと、必死に問題に向き合っていたんだ。
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