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好きになるのに理由がいるの?(9)

 夢でも見ているのだろうか。明日からまた話せない関係に戻る上に、好きな人がいることはやはり事実だと、二つも嫌なことがあったのに。一つは今、消えてしまった。  好きな人がいることはどうしようもなく悲しいことだけれど、でも、友人としての関係を築くことは許されたことは素直に嬉しい。それにアドレスを聞くってことは、学校以外で彼と連絡を取ることもできるようになるの? 彼が俺とそうしたいから、聞いてくれたってことだよね。  一方的だと思っていたけれど、そういう意味ではなくとも、彼も俺と仲良くしたいと思ってくれているんだ。 「滝くん、」 「ん?」 「俺も、仲良くなりたい……!」  今まで聞かせたことのない大きな声でそう言った。自分でもこんなに声が出せるのかと驚いたくらいだから、滝くんもそう思ったに違いない。キョトンと俺を見た後、クスクス笑い出した。 「奥原、他に好きな曲を教えてよ。今日は一緒に帰ろう」 「……うん」  連絡先を交換して、それから並んで教室を出た。話をしながら階段を下り、靴を履く。駐輪場に行って自分の自転車を出した後、なかなか自転車に乗らない彼を見て、また嬉しくなった。  それなりの距離があるから自転車で通っているのに、その距離を自転車を押しながら帰るだなんて。一緒に帰る時間が、長いほうがいいと思ってもらえたってことだろうか。 「滝くん、ありがとうね」 「何が?」 「ううん、何でもない」  緩む頬を我慢できなくて、思わず笑ってしまった。彼もつられてか、一緒に笑ってくれた。   帰り道、口ごもっては会話が途切れ途切れになってしまう俺の話を、急かすことなく丁寧に聞いてくれた。  途中の道で別れて、一人きりになった時、やっぱり夢だったかもしれないとそんな気持ちになったけれど、帰り着いて開いた携帯に届いていた「明日からも一緒に帰らない?」とのメールに、間違いない、夢じゃあなくて現実だったと、嬉しさに声をあげて泣いた。

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