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好きになるのに理由がいるの?(12)

 人と人の間をすり抜け、急いで机から教科書を取り出した。また別の日にゆっくり話せばいいのに、今、神井と何でもいいから話がしたくて少しの時間も無駄にしたくなかったから。いつもは見せない機敏な動きで、神井の元へ走った。 「必死すぎ」 「まずは、ありがとうって言うべきところでしょ」 「はいはい、ありがとう」  神井はぽんぽんと俺の頭を叩いてから教科書を受け取った。元々適当な性格をしていたけれど、ここだけは何の成長も見られないようだ。それから人の頭をすぐ触る癖も治っていない。 「神井の頭ぽんぽん……ちょっと力が強いと思うよ」 「縮めって念じてるからかな」 「そうだったの?」  「嘘に決まってるだろ」  何が本当で何が嘘なのか分からない。  神井はそういうところがあるから、どんな些細なことであっても掴みどころがないと感じることが多くて、反対にそれで彼が気になって惹きつけられることがよくあった。  けれど、少しだけ手を伸ばしたら掴めてしまいそうな距離に今はいる気がする。 「神井、変わったね。最近いいことあった?」  神井が俺にしたように、俺も彼の頭をぽんぽんしてみた。嫌がられたけれど、初めてできたそれに思わず笑みがこぼれる。 「よく分かったな。いいことあったよ。……あったというか、ある瞬間からずっと続いてる」 「濁して言わなくても、そういう人ができたって言えばいいのに」 「そういう人ができたんだよ。……はい、これでいい?」 「いやだからさぁ……」  これ以上言っても無駄な会話が続くだけだとそう思った時、授業始まりのチャイムが鳴った。  話しすぎてしまった! と慌てる俺に対し、自分のクラスに戻らなければならない神井のほうが、なぜかかなり落ち着いている。  何をしているの! 早く戻って! と手振りで示すと、教科書を脇に挟んだ神井が両手で俺の髪をわしゃわしゃと撫でた。

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