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好きになるのに理由がいるの?(15)
ぽかんとする俺を残したまま、神井が戻ってくることはなく、俺以上に状況の分からない滝くんは、何が起きているのかさっぱりだとしか言いようのない顔をしている。
帰って神井にメールをしてみようかと考えてもみたけれど、絶対に返信してくれない気がしたから諦めることにした。また彼のタイミングの「今度」で、きっとさっきの子を紹介してくれるだろう。
それに俺の好きな人がバレる予感がこれっぽっちもなかったことは、素直に嬉しいし安心だ。
「滝くんごめん……。帰ろうっか」
「その前に……、ちょっといい?」
「え?」
鞄を片手に立ち上がった俺の頭に、彼の大きな手が乗せられる。ぽんぽんと触れられた後、髪の毛をくしゃくしゃにされた。
「滝、くん……?」
「何となく、上書きがしたくて」
「上書き……?」
「いきなり何するんだって感じだよな。ごめん。早く帰ろう。今日は一緒に寄りたいところがあるんだ」
口をきゅっと結んで、今まで見たことのない顔を見せたまま、彼が俺に背を向けて歩き出した。慌てて引いた椅子を戻し、彼の後を追う。
上書き? 上書き……? と、何度も頭の中で考えてみるけれど、彼と同じことを彼よりも先に俺にしたのは神井しかいない。
じゃあどうして、それをわざわざ上書きだなんて言って真似をしたの?
「滝、くん……」
「……なに?」
「上書き、全然嫌じゃあなかったよ」
彼の真意など分かるはずもないから、その後に続く「嬉しかった」は言わないでおくことにした。
頭ぽんぽんなんて、漫画の世界でイケメンな男の子が可愛くて気になる女の子にするものだと、何となくそういうイメージがあって、自分はする側でもされる側でもないし、無縁なものだと思っていたけれど、そもそも好きな人に触れられるだけで何だって特別になるのだ。
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