18 / 101
好きになるのに理由がいるの?(17)
耳元で囁かれるその声が、彼の悲しさを伝えてくる。どうしてそんなことをそんな声で聞くんだ?
そうして混乱する頭は、包まれた彼の体温でさらに機能しなくなる。このままだとパンクしてしまうんじゃあないかとそう思った時、もう一度「イメージ変わった?」とそう聞かれた。
首もとへと回された手に、そっと指先で触れ、どう返事をすることがベストなのか分からないけれど、俺は思ったことをそのまま口にした。
「元々、滝くんに悪いイメージなんか持ってなかったよ……」
好きだと言うのに、どうして俺が彼に対して悪いイメージを持つのだろう。
最初の態度のことを気にしていたけれど、それだって俺は、話しかけられて嬉しかったのに。
「……そうなの? じゃあ俺、スタートラインに立てたってことでいいのか?」
「え?」
スタートライン。その言葉に息が止まった。
だってその言葉は彼が、好きな子に告白したいけれどそもそもスタートラインにさえ立てていないと、その時でしか出していないものだ。
俺が何のことか知っている堤で聞くということは……待って、今、何が起きているの?
「奥原、俺……」
「……っ」
ドッドッドッと激しく動く心音が耳に響き、自分の心臓の音なのに何か別物のようで、支配されていくその感覚に手足が震えた。
続けられた二文字の言葉は耳から全身へと伝わり、ゆっくりと心の奥深くまで染みていく。
「何で……」
「好きになってしまったんだ」
「……っ」
「好きになるのに、理由は必要……? 奥原の笑顔が見たい。俺に興味を持って欲しい。気づいた時にはもう止まらなくなっていたんだ」
彼のその言葉に涙が溢れた。好きになるのに理由が必要かって、そんなはずない。俺だって同じなのだから。
ともだちにシェアしよう!