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好きになるのに理由がいるの?(おまけ1)

 隣の席の奥原に、何となく見られている感じはしていた。それがどういった意味かは分からなかったけれど、きっと良い意味ではないだろうと自覚はあった。  スポーツだって人並み以上にやれるし、勉強は国語が少し苦手なくらいで他は分からないと思う問題はそうそうないし、それだから学校生活で何も面白いことがなかった俺は、毎日ただ何となく過ごしていた。一生懸命何かに打ち込むこともなく、寄ってくる女子を拒むこともなく。    奥原は元々誰かとわいわい話すような奴ではなかったけれど、隣の席になったにも関わらず何も話しかけて来ないし、嫌われているのだろうと思ったらそれに苛々して、初めての会話で強く当たってしまった。  何様だよと自分でも思う言葉を放ったのに、奥原は嫌そうな顔をすることもなく優しく微笑んで「いいよ」とだけ返してきた。文句の一つでも言えばいいのに、そこまで俺と話をしたくないのかと、どうしてかショックを受けた。  何か話をするきっかけが欲しくて、国語の時間に答えを聞いた。驚いた顔をしていたものの、また嫌そうな顔をせずに答えを教えてくれた。  終わった後に「ありがとう」も言えなかったと気にする俺とは反対に、一人音楽を聴いている奥原に少しだけ腹が立った。  課題の提出を押しつけても、それにも文句を言わず、すんなり受け入れるし、もしかして俺に対してそもそも興味すら持っていないのかもしれないと、今度は少しどころかかなり腹が立ったのを覚えている。  そんな人の気も知らないで穏やかな顔をして音楽を聴いている奥原のイヤホンを奪い、音楽は別に好きでもないのに何の曲を聴いているのか尋ねた。奥原の興味のある世界に俺も、入りたい気持ちになったから。

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