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君がいい。君しかいらない。(3)
「お前のその適当な考えを押し付けるな。男に興味があるなら、何も突っ込んでみなくたっていいだろ? 俺が代わりにお前のケツに入れてやろうか」
「は?」
その体で何を言っているのかと明らかにバカにした顔をした男に、思いっきり一発、頭突きをかませた。何をするのかと、男が怯んだ一瞬の隙に、体を押し返して反対の壁に押し付ける。十数センチの身長差であれば大したものでもないから、容易に押さえられた。
多分びくついているのだろう。見た目で判断するような奴は、俺のどこにそんな力があるのかと皆同じ反応を見せる。でもこの男は同類じゃあないし、自分のケツを犠牲にする覚悟なんてものはないから、それに対する恐怖も入り混じって余計に抵抗する力が弱まっている。膝を男のソコに当てて、ぐりぐりと押した。
「お前のソレで、俺が満足するとでも思う?」
満足するかしないかだなんて。そもそも一度もシたことがないのに。こうして言い返せる自分に笑いながらも、潰す勢いで膝に力を加えていく。「痛い……」と消えそうな声を漏らす男に、一度下げた膝をガンっと上げ直し、最後に一撃お見舞いしてやった。
「人を馬鹿にするにも程がある」
呻き声を出しながら倒れ込んだ男を跨ぎ、起きあがる前に早くこの路地から抜け出そうと走り出した時、何かにぶつかった。
「……っ」
……いや、感触的に何か、ではなく、誰か、だ。まさかアイツの仲間? 複数で俺を? と思ったのも束の間、少し恐怖を感じ顔が上げられない俺に向かって「ヒュウ」と呟いたその誰かは、俺の手を握るとそのまま走り出した。
突然の出来事に戸惑いつつも、必死に足を動かして付いていきながら前を走るその人を見れば、俺と同じ学校の制服を着ている。
「……あ、」
同じ学校の人に見られてしまった。知られてしまった。それまで全く震えてなかった手が震え、足が竦む。走ることができなくなって、今にも座り込んでしまいそうな俺を、その誰かは立ち止まって支えてくれた。そして、暗がりの路地の中で必死に隠していた顔を覗き込まれる。
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