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君がいい。君しかいらない。(5)

「はい、水」 「……え?」 「襲われそうになったわけで、いくら強いとはいえ緊張してただろ? それなのに、やっと気が抜けると思ったら俺がいるしで、大変な目に遭って疲れただろうからお詫び」  案外早く戻ってきた神井はそう言って水を差しだし押し付けると、再び俺の隣へと座った。覚悟していたことと全く異なる言動しかしない神井に違和感しかないものの、ありがたく水を受け取ると、口の端からこぼれ落ちるのを気にすることなくゴクゴクと乾いた喉に流し込んだ。 「緊張、少しはマシになったか?」 「……ん、」 「別に今日のこと誰にも言うつもりはないし、お前がゲイだろうとそうでなかろうと俺には関係ないから。余計なこと考えなくていいぜ」 「え、」  バラさないの? とそう聞き返せば、バラして俺に何の得があるの? と返された。得にならないからってそういう問題なのだろうか。面白い話題が見つかったわけで、こういうことってすぐに広められるものじゃあないの。  神井だからだろうか。本人も言っていたけれど、本当に人に興味なさそうだもんな。  神井とは二年生になって初めて同じクラスになったけれど、適当な性格なのかホームルームも話を聞いていないし、授業も真面目に受けているという印象はない。寝ていたり、ぼんやりしていたり。体育の授業に至ってはふらりとどこかへ消えてしまう。テスト中だって誰よりも早く終わらせて寝てしまうのに、成績は学年でも上位だ。  何でも分かってしまうから、毎日が退屈なのだろうかと、勉強ができるのは羨ましいけれどそんな彼を見て少し寂しくも感じていた。ふわりとしていて掴みどころがなく、不思議な人だなぁというくらいの認識で、席が前後になった今もあまり言葉を交わしていない。 「俺がバラすかもしれないとかそういうことで怯えるわりには、ゲイかって聞かれて否定しないし、そういうところすげぇ好感持てるわ。でももったいないな。自分では否定していないのに、他人にバレることは許せてないんだから」 「え……?」 「いや、何でもない」   

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