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君がいい。君しかいらない。(6)

 仕方がないか、この世界だもんな、と自己完結させてしまった彼にこれ以上聞き返すこともできず、閉めた蓋を開けてもう一度水を飲んだ。今まで出会ったことのないタイプの人だとそう考えながら横目で盗み見ると、神井は盗み見るどころかガッツリ俺を見ていたらしく、目が合ってしまった。ごふっと吹き出すと、神井は汚いと言って俺を笑う。 「俺の家、ここからすぐなんだけど、来る?」  ハンカチとか気の利いたものは持っていないからと、自分の袖が汚れると気にすることもなく、俺の口元をごしごし拭きながらそんなことを聞いてきた。 「他人に、興味ないんじゃあないの?」 「基本的に興味ないけど、俺だってたまには興味持つよ」 「俺には興味持ったの? それってやっぱり俺がゲイだから?」 「類に興味は持ったけど、ゲイだからってのは、持った興味の側面にしかすぎないな」 「何言ってるか分かんない」  バカな頭で考えるのはやめなよ、と失礼なことを言う神井の頭を軽くだけれど一発殴ってやった。まだ大して会話をしたことのない俺をバカ呼ばわりなんて、普段からそう思われているのだろうか。当てられても答えられないことが多いもんな。 「類はギャップが多いなぁ。小柄なのにすげぇ強いし、バカそうに見えないのにバカだし」 「バカバカ言い過ぎだろ」  立ち上がった神井が俺に手を伸ばす。バカ呼ばわりした奴の手なんか誰が握るか、と睨んで自分で立ち上がると鼻を思いっきり摘ままれた。 「で、結局どうすんの? 来る?」 「いひゃい」  まるで行くという選択肢しか与えられていないかのようだ。首を振って行かないと示せば俺の鼻を摘まむ力が強くなる。それならどうして「来る?」なんて疑問系で聞くのだろう。「来い」って言えばいいのに。  しぶしぶ頷けばやっと鼻を解放してもらえた。じんとした痛みが残っているし、きっと摘ままれすぎて赤くなっているはずだ。神井が笑っているのを見てそう確信した。

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