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君がいい。君しかいらない。(8)
何でも見透かしているふうに言わないで欲しいと、そう思いながらオレンジジュースを一気飲みすると、肘をついた神井が笑いながら俺を見ていた。優しさのあるその微笑みに戸惑っていると、コップにジュースを注いでくれた。どうしたらいいか分からず、それをまた一気に飲み干す。お腹がたぷたぷになってしまい、少しだけ苦しい。
「類は可愛いな」
「あ、またバカにしたな?」
「いや、この可愛いは別の意味だよ」
「別? は?」
「バカには分からないだろうから、深く考えなくていい」
「バカって言うな……!」
神井がまたジュースをコップに注ぐ。もういらないと拒否したのにたっぷりと入れられた。何のいじめだよ、と思うものの、どうしてか楽しくなってきた。……変なの。まともに話をしたのは今日が初めてで、余計なことまで知られて、こうして意地悪もされるのに、神井との時間は嫌じゃあない。……明日からは、学校でも話をするようになるのだろうか。
初めて楽しみができたかもしれないと、嬉しくなった。
◇
「神井、ホームルーム終わったよ」
「ふぁ……」
「お前、いっつも寝てるな」
「だって、担任の話クソつまらないだろ」
それはそうだけれど……と思ったものの、だからと言って寝ていい理由にはならないからその言葉を返すのはやめた。神井がクソつまらないという話の中でも大切な内容だってあるのだ。それを彼が聞いていないから、全て俺が伝えてあげなければならないという謎の役割が課されてしまっている。
「類、また後で何言ってたか教えて」
「ったく……」
神井を放っておくことができずに、こうして甘やかしてしまう俺が悪いのだろうか。でも俺が教えてあげなくなったとしてもきっと、神井はまたホームルームで寝るはずだ。同じ結果なら教えてあげる方が彼のためにはいいだろうし、俺も頼られるのは嫌いじゃあない。それに、何度席替えを行っても毎回必ず前後か左右にしかならないし、近い席になる運命ということは、神井のお世話もその運命の中で決まっていることなのだろうと思うことにした。
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