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君がいい。君しかいらない。(10)
「しばらくしたらまた前みたいに遊べるようになると思う」
「しばらく?」
「うん。それまでは断ってばかりになると思うけど、待っててよ。俺だって神井と遊びたいから」
「しばらく遊べない理由は聞いたらダメ?」
「……うん、言えない。ごめん」
後ろを向いて神井と話していたけれど、目頭がじんわりと熱くなってきて、このまま話していたら大変だと体を前に戻した。膝の上で丸めた両手が微かに震えているのを、強く握りしめることで誤魔化す。
「類?」
後ろから不思議そうな声で神井が俺の名前を呼んだ。返事もできずに固まっていると、ぽんぽんと頭を叩かれ、「あまり考え込むなよ。バカなんだからパンクするぜ」といつものようにからかわれた。
「……バカって、言うな、」
絞り出した声が授業開始のチャイムにかき消される。頭にはまだ神井の手の感触が残っていて、それにまた視界が揺れた。
◇
「類! 今日の放課後は委員会活動があるからな。忘れんなよ」
昼休みになって神井と弁当を食べ始めた直後、同じ広報委員会の安井 がドアの入り口付近でそう叫んだ。誰かに頼んで俺を教室の入り口まで呼ぶか、自分が教室に入ってきて俺の所に来るかして伝えればいいものを、どうしてそんなところから全員に聞こえるくらいの大きな声で叫ぶのか。
安井は目つきが悪いし、声はデカいしで、関わりがなければ彼が優しいことを知らないから、案の定ドア近くの席の奴らは怖がってびくびくしている。俺の横で神井もポカンとして安井を見ていた。覚えているから大丈夫だと叫び返す勇気はないから、安井に見えるように頭の上で指先を合わせ、大きな丸を作った。
「覚えてんならいいんだよ! じゃあ放課後な!」
いつも以上に大きな声を出している安井を見て、彼と同じクラスの太田がまた何かやらかしたのかな、と思った。きっちりしている安井に対して太田はほんわかしてマイペースだから、委員会活動はいつも参加せずに怒られてばかりいる。先々週の活動だってなかなか来ない太田をわざわざ呼びに教室に戻った安井が引きずって連れて来たもんな。
教室の人数の関係で安井のクラスからは広報委員が二人いるけれど、仕事をしているのはいつも安井だ。お疲れ様と心の中で呟いて、弁当にまた手を伸ばした。
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