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君がいい。君しかいらない。(11)

「今日も遊べないか」    トマトを箸で掴んだ時、ぼそりとそう呟いた神井が、あ~んと口を開けた。吸い込まれるようにしてそのトマトを神井の口元に持って行くと、パクリとトマトが消えた。 「遊べなくても駅までは一緒に帰ろうと思ってたのに」 「ごめん。遅くなると思うから先に帰ってて」  今日は無理をしなくても神井の誘いを断る理由がはっきりしているからと安堵したものの、ムスッとしている顔を見ると胸が痛む。トマトをあ~んして食べさせてしまったことに対しての緊張やら照れやらを感じる隙間は少しもなく、神井に対して罪悪感しかない。今、何でもいいから願いを叶えてあげると言われたら、間違いなく、神井に対する好きの気持ちを消して欲しいと頼むのに。  けれど、早く消えて欲しいと願う分、神井のことを考えてしまう時間が増えるわけで。何が起きてもこの気持ちは消えないんじゃあないかとそれが怖い。食べようと思って掴んでいたコロッケを弁当箱の中に戻した。  このまま消すことができずに、約束した「しばらく」がずっと続けば、そのうち神井と俺は友人でもなくなるのかな? それは嫌だと思ったけれど、何て勝手な考えなのだろう。全部自分が悪いのに。 「しばらくって前に言ったの、まだかかるって言ったら、神井は俺のことを嫌いになる?」 「嫌いにならないよ」 「興味も? なくならない?」 「なくならない」  迷うことなく返されるその言葉に、泣きそうになるのを堪え、奥歯が痛くなるくらいに歯を食いしばった。 「……俺って勝手だね」 「バカなのに、余計なことを考えるからだろうな」 「バカって言うな……」 「はいはい」  神井は持っていた箸を置くと、俺の頭をぽんぽんと叩いた。癖なのだろうか、と思うほど、彼はこうして俺の頭に触れてくることがある。心地よい分たまらなく悲しくなるのに、やめてとも言えずされるがままで、手の感触も大きさも覚えてしまった。 「類」 「ん?」 「お前は可愛いな」  「え……?」 「早く食べないと昼休み終わるぜ」  最後に、わしゃわしゃと髪に触れた後、神井は再び弁当を食べ始めた。 このタイミングで何を可愛いと思ったのだろうか。聞き返してみてもなかったことにされ、何も分からない。思えば初めから神井の使う可愛いは謎だった。別の意味とか何とか言っていたし、かと言ってバカにしているわけでもないようだし。 「神井、コロッケいる? あんまりお腹が空いてなくて」 「食べる」   今度は口を開けなかったから、神井の弁当箱の蓋の上にコロッケを置いた。代わりにあげると言って入れられたパセリに文句を言い、無理して笑ってみたけれど、それでもまたすぐに悲しくなって。苦いと分かっていながらもパセリを口に含んだ。

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