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溶け出た熱と、甘く黒い痛み。(4)
頬の熱が一気に上がったのが分かった。どこかに逃げてしまいたくて、帰ると一言そう伝えると、有澤の手から逃れ、自分のズボンを握った。
「……っ、」
勝手な勘違いをして迷惑な感情を押しつけて、あげくあんなことまでして。最悪な形で気持ちを伝えることになり、それで友人関係も終わりだなんて。
帰るとそう言ったのに、どうしようもない感情が溢れ、ズボンを掴んだまま固まってしまった。これからどうしたらいいのか分からない。
責めてこない有澤も怖いし、自分で脱いだこのズボンの履き方も分からない。
「佐久間……」
「……っ」
「この流れで言うのもアレやけど、俺も、お前が好きだよ」
「え……」
聞き間違えたのかとそう思い脳内で再生するも、言われたのはやはり告白で。
どいういうことだ? とぐるぐる考えながら有澤の方を見ると、俺が下げてしまったスウェットを戻しながら優しく笑っていた。
「ちょっと目のやり場に困るかい、この毛布かけてて」
俯せ状態だった俺を起きあがらせ、それから胡座をかいたそこに座らせると、有澤は俺にベッドにあった毛布を引っ張って掛けてくれた。
背中を覆うように抱きしめられ、触れ合っているそこから熱が伝わり、緊張で足の指に力が入る。手には汗が滲んだ。
「何かの冗談? 俺がお前に嫌なことしたから、俺が一番嫌がる方法で仕返ししてる?」
「何でそんなこと俺がすると思ったと? 冗談で好きって言葉を言うわけないやろ。その言葉は冗談で言うべきものじゃあないって、お前だって分かってるくせに」
俺を抱きしめる力を強くして、また俺に都合の良い言葉を吐く。……本当に信じてもいいのだろうか。
「……本気にしてもいい?」
「してもらうつもりで俺は言ってるっちゃけど」
まだ聞くのかと、有澤が拗ねたようにため息を漏らした。
ああ、こんなことが現実に起こるだなんて。神様が結んであげようと応援してくれるような、そんな行いは何一つしていないのに。
有澤の意志でこの結末を迎えたなら、彼はとんだバカだ。俺なんかを特別に思ってくれるだなんて。
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