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溶け出た熱と、甘く黒い痛み。(5)
「だったら」
だってこれだけ言われてもまだ、信じられないとその気持ちが勝ってしまうんだもの。信じさせてよと、自分に自信のない俺には、どうしたって証拠が必要なんだ。
「俺だけに見せる顔、見せてよ」
振り向いて、有澤の襟元を掴んだ。顔は涙でぐちゃぐちゃにしたまま、勝手な言葉をぶつける。
「みんなの有澤じゃあなくて、俺の有澤だって、俺だけの有澤だって、ちゃんと見せてよ」
みんなに優しい有澤の笑顔と、俺に向ける笑顔の差も分からない。有澤のことを長い間見てきたというのに。そんな俺に分かるようにちゃんと証明してみせて。
有澤! と悲鳴にも似た声でそう叫べば、毛布にくるまれたまま床に押し倒された。
有澤は穏やかな顔とも少し怒った顔とも違う、どこか冷たさのような、それでいて執着心を滲ませたような、そんな初めて見せる表情をしている。
「有澤……っ」
「人付き合いの苦手なお前に優しくしたのも、甘やかしてきたのも、全部好きになってもらうためって言ったらどうする? 俺はそれだけ本気よ。お前が俺を好きになるのも、いつかこうして爆発するのも分かってたよ。みんなに昨日のことを彼女とのデートかと聞かれた時だって俺は一切否定せんかった。お前に嘘が伝わるようにってわざとね。それでもお前は、そんなことをした俺のこと好きって言えると? 逃げないで付き合える?」
「うん、好、き……」
黒くて、でも俺にとってはとびきり嬉しい言葉に支配され、彼の腕の中で震えた。そっと頬に手を伸ばし包み込むと、その手を舌でなぞられる。
「たとえお前が俺だけしかおらんからって、それで俺を好きになったとしても、俺は遠慮なくそこに付け込むかいね」
ぬるりとした感触の後に、甘い痛みを感じた。噛まれた手のひらには歯形がくっきりと写り、舌なめずりした彼が今度は俺の唇にかぶりつく。
「俺の物って印、見えるところにも、お前の中にもいっぱい付けちゃる」
「あっ……」
俺だけに見せる顔。俺だけが彼の特別な存在。どんな意味であれそれは現実になったのだ。されるがままに求められながら俺は、強く彼の背に爪を立てた。
END
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