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貴方って人はもう(2)

 もう一度溜息をこぼした彼のその口を塞ぎ、この旅行の間だけでいいから俺を少しも拒否しないでほしいと、そんな想いを込めてキスをした。  いつもよりしつこいと顔を逸らして逃げようとするけれど、そうはさせないと両手で包み込みまた口を塞ぐ。カサついた唇には何の魅力もないのに、基弘さんのだからこんなにも愛おしくて触れていたいと思うんだ。 「基弘さん……」 「……っ、ちょっと、頼むから落ち着けてって。あのなぁ、何もかもお前だけだと思うなよ」 「え?」  一瞬キョトンとして力の抜けた俺を思いっきり押し飛ばした彼は、背中を打ち付けて痛がる俺に覆い被さった。 「足りないのは……俺だって同じだったんだから」 「……基弘さん?」  どうしたんだ? と戸惑う俺の視界には珍しく頬を染めた基弘さんがいて、ゴクリと唾を飲み込んだ俺は何も言えなくなった。 「しばらく会えていなかったし旅行にでも行くかって気まぐれにここに誘ったわけじゃあないんだよ。お前と二人きりでどこか遠くに来たくて、そのための休みを取ろうとしてここ数ヶ月ずっと働き詰めだったんだ」 「……えっ。えっ、えっ? えっ……?」 「えっえっえっえうるせぇ!」 「えっ、だって、えっ……」  口が馬鹿に……いいや、可愛いことを言う基弘さんのせいで口どころか全て壊れてしまったのかもしれない。  言いたいことがたくさんあるのに言葉にならない。俺はてっきり気まぐれで誘ってくれたのだと……。だってあの時も「どっか行くか」って軽く一言そう言っただけじゃあないか。旅館もこっちで適当に決めるわって、それだけで、俺とどこに行きたいだとかどんな旅行にしたいだとか、一切なくて。  たまには俺に飴でも与えてやろうとそれくらいだと思っていたし、俺はそれだけでも十分に嬉しかったのに。 「……そうだったの? ねぇ基弘さん、顔を見せてくださいよ」 「いつも見てるだろ」 「うん、でもね。今……貴方の顔が見たいの。見せて」   基弘さんの腕を掴み、バランスを崩した彼を再び押し倒した。隠したくても隠せないようにして、見たこともないくらい耳まで真っ赤にした彼の顔をじっと見つめる。あぁ……いつも素っ気ない彼が俺のせいでこんな表情をするだなんて。 「基弘さん……可愛いです」 「おっさんに可愛い言うな」 「……俺にこうされるの分かっていたんでしょう? キスマーク……全身に付けられるって分かっていたから、だからわざわざ露天風呂付きの部屋にしてくれたんだよね」 「……くっ」

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