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花火が終わる、その時には。(1)

「最後にお前と来ることができて良かった……。良い思い出になったよ」  大きく打ち上がった花火が、隣に座っている彼の顔を照らす。  わざとらしく明るい声でその言葉を発した唇はきゅっと結ばれ、花火を見上げるその表情は今にも泣き出しそうに歪んでいた。さっきまで楽しく屋台を回っていたけれど、花火が上がるということはもうすぐ、このお祭りも終わってしまう。 「千鶴(ちづる)」  名前を呼ぶも、俺のほうを向いてくれなくて。大きな音にかき消されたのかと、もう一度呼ぼうとしたけれど、やめた。  聞こえていて気づかない振りをしているんだ。今俺のほうを見てしまえば何を言い出すか分からないから。振り向かれたら俺も、何を言ってしまうか分からない。  それでも。 「……っ、やめろよ」 「最後、なんだろう? だったら最後にこうしたって、文句は言わないで」  芝生を掴むようにして置かれていた彼の手に自分のを重ね、指を絡めた。温もりを逃すまいと力をいれて握りしめれば、彼がびくりと震えたのが分かった。俺を見つめる彼の目に涙が光る。 「お前がやたらと最後を強調する意味、俺は分かってる。確かに遠いところに行ってしまうけれど、それでもまたなって笑って別れることもできるのに、そうしないのはもう二度と、俺に会う気がないからだろう?」 「……っ、手、離して」  出会ってからこれまでずっと一緒に過ごして来たじゃあないか。俺の思い出には、必ず隣に千鶴がいる。 「気持ち、気づかないとでも思っていたの? 高校生活がお前と隣の席からスタートして、それで今まで他の誰よりも一緒にいたし、お前のこと見てたよ。お前だってそうだろう? 俺のこと、そういう意味で見てたよな? 俺の気持ちだって知っていたはずだ。それでも、俺とは最後って、そう言うんだな」

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