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花火が終わる、その時には。(2)

 休日に二人で会うときはいつも、学校に遅刻ばかりする彼が俺より早く集合場所に来ているのも、すれ違う楽しそうなカップルを羨ましそうに目で追ってはちらりと俺のほうを見て唇を噛み締めるのも、大した用もないくせに呼んでみただけとだと言って何度も俺の名前を呼ぶのも、女子と話をしているときにさりげなく隣に来て会話の邪魔をするのも、全部、俺のことが好きだからだと、そう思っていたのに。  そして俺が彼のそういうところを可愛いと、愛おしいと思っていることも知っていただろうに。  俺は千鶴の肩を抱き寄せ、その小さな体を包み込んだ。今度はやめろとも言わず、かと言って抱きしめ返してもくれない彼に、最後だなんて言わないでほしいと、そんな気持ちが募っていく。 「初めの頃から、途中で転校があるかもしれないことは分かっていたんだ……」 「え?」 「だから、好きになってもそれ以上は望んじゃあいけないって言い聞かせてた……!」 「……どうしてだよ」  好きになれば、それ以上を望むのは当たり前のことじゃあないか。想うだけじゃあ足りなくなって、自分だけのものにしてしまいたいと、そう考えるのは自然なことだろう?   俺が今彼にしているように、こうして抱きしめたり、キスをしたり、もちろんそれ以上だって。 「遠くに行ってしまってから、お前を縛ることになるのは嫌だ」 「縛るって……」 「元々俺はあっちの大学を希望していたし、お前はずっと地元にいるってそう言っていただろう? 高校生活の残りの一年半だけ離ればなれになるんじゃあない。その後の大学だってそうだ。それだけ離れていれば続きっこない。大学に行けば新しい出会いもあるだろうよ。俺なんかすぐに忘れてしまうに決まっている。……お前との未来が考えられない」  だいたい男同士じゃあないか!  千鶴がそう言ったとき、ドーンっと一番大きな花火が上がったのか、遠くから聞こえてくる歓声が騒がしくなる。俺もその花火のように我慢していた気持ちが弾けてしまい大声をあげた。

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