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7.「執着」*俊輔 ※

          「……しゅ ん…… ッ」    しがみついてくるその仕草が――――……なんとも言えないというのか。なんだかくすぐったく思える。  オレは真奈の唇を塞いだ。 「……ん、ン……っ……ふ……」  深くその身体を貫いたままで、キスを繰り返す。 「……ん……ッ……ん、ぅ……」  手を胸に這わせて、乳首を指先で刺激すると、真奈がびくんと震えて、中をしめつけてくる。 「……や…… …… もっ……」  きつく閉じていた瞳を微かに開けて、涙の潤んだ瞳で、真奈はオレを見上げた。   「――――……もっと、か?」 「……っ……ぅん……」    悔しそうに一度唇を噛みしめて、頷くのが、余計オレを煽る。   「……や……あぁ……!」  少し荒っぽく突き上げて、すぐにぎりぎりまで抜いて。  また奥まで入れて。 「……あ、ぅ……ン……っ……」    真奈を抱く時は、弱い催淫効果のある香りを使う。  中毒性も、副作用もない、弱いものだけれど。  多分それを使ってるという事実が、真奈には都合がいいのだと思う。  どんなに乱れても、それのせい。  それに救われてる感があるから、必ず、それを使う。  そこまで意識を奪うみたいな強さはないのだけれど、それは、真奈には言っていない。  喘いで外れた唇を、もう一度重ねる。  激しく突いても、真奈は、今はもう、感じるだけ。  最近では、目に見えた抵抗も、しなくなってる。   「……んぅ……ん……ッ」  ――――……可愛い。 ……ような気がする。  とか。  こんなことしてて、そんなことを感じるとか。    「……や……ん、あ……!」  そんなの、真奈が初で。  よく意味が、分からない。   耐えきれないといった声を出し、真奈はオレの欲望を受け止めて。  ふっと、気を失うみたいに眠りについた。 「――――……」  力を失った真奈を見下ろす。  ゆっくりと中から引き抜くと、真奈は眉を顰めて、声を漏らす。 「……ん……」    そのまま目は覚まさずにぐったりと横たわっている真奈をしばらく見つめていたオレは、バスローブを羽織って、立ち上がった。布団を真奈の体にかけてから、バスルームに行き、頭から熱いシャワーを浴びる。 「――――……」    何とも形容しようのない気分に陥り、ため息を付く。  初めて、族のたまり場のクラブで、真奈を見た時。  なんだか、ものすごくムカついた。    別に自分の状況に対して何か不満があるとか、そう言う事は全くなかった  国内外の高級ホテルやゴルフ場、料亭その他諸々を経営する父親は、ゲームセンターやパチンコ等の娯楽、果てはラブホテルなどの施設などにも手を広げている。  元は昔気質のやくざからの成り上がりだった為に、妙な所にもものすごく顔が利く。  表向きは、一代で財を成した実業家と言われているが、清いばかりではないだろうなと思っているし、政治家などにも顔が利く父を、一線引いて見ている部分もある。  高校生になったオレが、同級生の|岩瀬 凌馬《いわせ りょうま》と一緒に暴走族を作って適当に遊んでいるのを知っても、どんな場所でも人の上に立って置く事は将来役に立つからといったコメントを寄越してくる。条件として、成績を落とさない事。そして、後に役に立つような大学に、必ず入学する事だけを言われた。  オメガだった母は、オレが小さい頃に亡くなり、アルファの父が連れてくる毎度違った女達を横目に育つという、あまり好ましくない家庭環境のこんな家でも。  もしもう一度生まれ変わるとして、どこの家に生まれたいか選べと言われたら、ここで構わないと思う位、特別な不満はなかった。    このまま、ある程度の年になったら、父の後を継ぐ勉強を本格的に始める。  その約束で、オレは毎日適当に大学に通い、適当に遊び、たまにバイクで飛ばしたり、とにかく好きに暮らしていた。  族の一部の連中が金欲しさにクスリに手を出したと知った時も、特にこれといった思いもなかった。凌馬は、クスリはやめろと言ってるみたいだったが。  クスリはちょっとした都会に出れば日常的に出回っている。今更道徳を唱える気も更々なかった。欲しがるヤツは、どこにでも、居る。  何一つ不自由しない暮らしに、何かの不満があるはずも無い。  そう思っていた。  そこへ、突然、真奈が飛び込んできた。  オレは、族のリーダーは引退して凌馬に譲ってあった。  あの日、凌馬に会いにクラブに行くとまだ凌馬は来ていなくて、真奈が訪ねてきた。  真奈が会いに来た相手は凌馬だったが、そんなとこに一人で飛び込んでくる奴に少しだけ興味がわいて。  オレが会う、と言って、目の前に連れてこさせた。  族の連中とも、ご機嫌取りをしてくる取り巻き達とは勿論。数少ない「友人」と呼べる人間とも。  全く違う瞳を持った人間が、突然、オレの前に現れた。  汚れたものは知らないというようなそのまっすぐ瞳。  たとえ勢いだったとしても、友達の為に自分がどうなっても良いなどといったような、そんな甘っちょろい言葉を吐く人間を。  汚してやりたくなった。  今となっても、自分でもよく分からないが、始まりはただの思いつき。  真奈を見ていたら、なんだかイライラして。   自分でも訳が分からないそんな理由で、 オレは、真奈に手を出した。  何をされるのか分からずに、オレを見上げる真奈にますます加虐心がくすぐられて。  男なんか抱くのも、抱こうと思った事すらも初めてだったのに。  ――――……何でなのか。  「オレのものになれ」なんて言いながらも、飽きたら即放り出すつもりだったのに。   ――――……離せなく、なってる気が、する。    

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