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19.「パーティー」2/2*俊輔

   少し前だったら連絡先を交換、とかなったのかもしれないが。  まあ、親父はそれを求めてるしな……。  適当に会話をしながら、どう断るのが波風が立たないか、既に考えていたその時。 「……俊輔様」  不意に聞こえた和義の声に振り返ると、いつの間に来ていたのか、和義が少し離れて背後に立っていた。 「お話中の所申し訳ありません。社長からお電話がありました。急用との事ですが……」 「ああ、分かった」  何の用だと面倒に思いながらも、この場を立ち去る良いチャンスなので、すかさずそれに乗る事にした。 「すみません、失礼します。またどこかで」 「ええ……」  残念そうな表情の彼女には構わず、オレは和義と歩き出した。  部屋を出、そのまま屋敷を出て車に向かいながら締めていたネクタイを少し緩めた。 「親父、なんだって?」 「――――……若」 「……んだよ?」  珍しく質問に直に答えない和義に、不思議に思って振り返ると、これまた珍しく、和義は言いにくそうに。 「……今の方とお話を続けたいと思われてましたか?」 「いや。どうやって立ち去ろうか考えてたとこ。だからちょうど良かったけどな。用事って何だよ?」  応えると、和義は「それなら良かったです」と、意味の分からない事を言って、ふと笑んだ。 「――――……社長からのお電話は嘘です」 「……あ?」 「様子を伺いに扉の所まで来たのですが、若が迷惑そうに感じたので。……若が抜けやすいかと思いまして」  急いでいた足を緩めて、ネクタイを更に緩めて息をついた。 「……つか、オレ、バレバレだったか?」 「いえ。相手の方は気付いてないと思われます」 「……あ、そ」  相手は気づいてないのに、お前には分かる訳か。  ……何だか見透かされているようで、面白くはない。  なんとなく黙っていると、和義が少し笑う気配。 「お好みではありませんでしたか?」  和義が意外な事を聞いてきた。思わず振り返ってしまう。 「……好みか好みじゃねえかで言ったら…… 好みだな、すげえ美人だったし」 「そうですか」 「……何で?」  「いえ。特に理由があってお聞きした事ではありません」 「…………」  何を言いたいのかは知らない。多分何か思う所はあるのだろうが、一度こう言ったら和義は何も言わない。  オレは、ただ何となく話を切れなくて、ため息と共に続ける。 「……何か面倒なんだよ、全部」 「……面倒、ですか?」 「女との会話も、誘うのも誘われるのも。とにかく全部すげえ面倒。まあもともとパーティーが面倒だけど」 「そうですか……」  和義はそう言って、ふ、と笑った。 「……んだよ? 何で笑った?」 「いえ…… ただ、若は、以前はその駆け引きが面白いとおっしゃってましたので」 「ああ……言ってたよな」  他人事のように言いながら、車に乗り込んだ。  そうだな。確かにそんな事を言っていた時もあった。しかもそう遠くはない過去だ。  その遠くない過去と、今の、違いは。  ……もう一つしかないのは、分かってる。 「……なあ、和義」 「はい?」  運転席でシートベルトをしめている和義に呼びかけると、斜めに和義が振り返る。 「……いつものクラブに向かってくれ。凌馬が居る」 「分かりました」  和義の声を聞きながらシートベルトをしめて、椅子に背を沈めた。  

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