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21.「連れて帰って」*真奈

    なんだかもう、本当に驚きすぎて、何も答えられない。 「真奈」 「……」 「聞いてるか?」 「……」  そう聞かれて、辛うじて頷くと、俊輔はオレの肩に触れて、少しだけ離した。すごくすごく繊細な、壊れ物にでも触れるみたいな触れ方。  でも、オレはさっき俊輔を見た時よりもかなりパニック。  こんな風な、触れ方も知らないし。  穏やかに話す、俊輔も知らない。  俊輔が謝るなんて。……一体、なんて答えればいいんだろう。 「……真奈の嫌がる事は、しないから」  静かにゆっくりと、紡がれる言葉。   「……だから、今回だけ許せ」 「――――……」  その言葉を聞いて、急に瞬きが、戻ってきた。  ……許せ……?  ……許せっ……て、そこは、やっぱり命令口調なんだ……? 「――――……」  何だか、恐怖とか、驚きから一転。  不意に、おかしくなってしまった。   「……うん」  自然と、顔が綻んだ自分に、驚いた。  何が楽しいんだ。オレ。  ――――……笑うような所じゃ全然ないのに。  だけど、俊輔がこんな風に誰かに謝るなんて。  きっとほとんど無いんじゃないかと、容易に想像できてしまうし。     誓う、なんて言い方で約束してくれる程に。  あのことを許して欲しいと、思って……くれてる、んだ。と、思ったら。    どうしても。  どう、自分の気持ちを誤魔化そうとしてみても。  やっぱり、どうしてもどうしても。……なんだか、嬉しいみたいで。 「……許す……」  まっすぐに見上げてそう言うと、俊輔は、ほっとしたように、少しだけ表情を和らげた。  笑った訳じゃないんだけど、ほっとしたのは、すごく伝わってきた。   「……真奈を、オレの家に連れて帰りたい」 「――――……」 「良いか?」 「――――……」  何て答えればいいんだろう。良いよ、なのか。連れて帰って、と頼むとこなのか。  ……何か、色々考えてたら、すぐに答えられなくて少し黙っていたら。 「……嫌って言っても……そこだけは聞いてやれねーけど……」  ふ、と、苦笑いの俊輔に、なんだか笑ってしまいそうになる。  ……だって。嫌なことしないって今さっき言ったのに。  嫌って言ってもそこは、連れて帰るって。  選択権ないなら、聞かないでほしい……なんて思うのだけれど。  ……オレを、連れて帰って、くれるんだ。    嫌なことはしないって、約束をしてでも。  ……まだ、オレを、俊輔の近くに連れて帰ろうって、思うんだ。  凌馬さんにも、言った。  あんなことされても、俊輔を憎んでないって。全部が嫌いじゃないって。  迎えに来てくれたら、帰るつもりで、凌馬さんに俊輔を呼んでもらった。  オレを逃がしてって頼んだら、凌馬さんは絶対そうしてくれたのに、オレはそれを断って、俊輔のところに帰ることを望んだ。  ほんとに、どうしてだろうって、自分でも思ってた。  でも、なんだか。  今の俊輔を見ていると。  こういう俊輔も、居るんだって。  オレは多分、心のどこかで感じてたから。  憎んでなかったんじゃないかと。  ――――……何だかすごく、思ってしまった。

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