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22.「抱えあげられて」*真奈
立ち上がった俊輔を、何となく見上げる。
「真奈」
「……?」
「どうやって抱いて欲しい?」
「え……」
抱いて、という言葉に浮かんだのは一瞬あの行為の方で、無理無理、と首を振ると。俊輔に、呆れたように冷たく見下ろされた。
「嫌がることはしねえっつったろ。……するか、お前がそんな時に、こんなところで」
あ、と何だかちょっと恥ずかしくなりながら頷く。
「どうやってって、何?」
「だから――――……」
ち、と舌打ちされて。ふわ、と抱き上げられた。
それは完全に、「お姫様抱っこ」としか言い表せないような、体勢で。
う……うわ――――……やだ。え、まさかオレ、これで、下の喫茶店とやらを運ばれるの? 嘘でしょ、やだやだ。
「……こ、これは、やだ」
「んじゃ、こっちか」
一度降ろされて、今度は、ひょいと荷物みたいに肩の上に抱え上げられてしまった。目の前には、俊輔の背中。というか肩というのか。
え。てか、……これも嫌なんだけど……っ。
こんな荷物みたいなのも、これはこれで、とっても嫌だしっ。
……と思うけれど、さっきのお姫様抱っこに比べれば数倍マシなので、黙る事に決めた。少なくともこっちなら、顔は見られなくて済む。そんな諦め方をした自分に、少し呆れる。
「荷物はこれだけか?」
通帳とかだけ入れてきた、小さなショルダーを手に取って、俊輔が聞くので、うん、と答えた。
「和義が車で待ってる。行くぞ。こんなところじゃなくて、ベッドで寝た方がいいだろ」
もうオレの返事は関係なさそうなので、黙っていると、俊輔が部屋のドアを開けてすぐ凌馬さんの声がした。
「もう帰ンのか?」
「ああ。 ……悪い、凌馬。――――……拾っといてくれてサンキュ」
「おう。――――…… またな、真奈ちゃん。体大事にしろよ?」
「……ありがとうございました」
苦しい姿勢のまま、俊輔は降ろしてもくれないし、特に凌馬さんもそれを望んでないようなのでなんとかお礼だけ言う。すると、くす、と笑って、オレの背中をぽんぽん、と叩く。
そんな凌馬さんに、俊輔が、呼びかけた。
「凌馬」
「ん?」
「すぐ会いに来っから」
「おう。つーか、集会顔だせ」
「……分かった。じゃあな」
いくら身長差はあるとはいっても、そこまで大人と子供のような体格差はないのに、オレを軽々と担いで、俊輔が階段を降りていく。
喫茶店の中では、俊輔に掛けられる声がいっぱい聞こえるので、顔を上げるのは絶対嫌で、もう、ぐったりと動かないことに決めた。
ようやくその店を出ると。すぐの所に車が止まっていたみたいで、あっという間に車の中に押し込まれた。
通りを行く人が何だか不安げにこちらを見ているのが、俊輔が乗り込んで扉が閉まるまでに見て取れた。
あの格好で店から運ばれて、しかもこんな黒塗りの、中がまったく見えない車に、詰め込まれるように乗せられてたら。……何かヤバいことかと思うんじゃないだろうか。
……なんとなく、通報されませんようにと思ってしまう。
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