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18.「穏やかな」
食事を終えた頃にちょうど、俊輔のスマホが震えた。
周りを見て、大丈夫と判断したのか、「もしもし」と静かな声で話し出した。
「凌馬、なんだ?」
……凌馬さんか。
仲良しだなぁ、ほんとよく、連絡とるんだな。
「今? 前にお前と来た海沿いのイタリアンの店。……ん? ……ああ、ドレッシング? 買ってこいっつーの?」
それを聞いて、さっきメニューのところに、ドレッシングとかこの店のオリジナルっぽいのが売ってると書いてあったのを思い出した。
「分かった。適当に買ってく。……そっちの話は、それ渡すとき直接聞く」
手短に電話を終えた俊輔は、オレを見て苦笑い。
「真奈が大丈夫なら、あとで、凌馬んとこ寄るけど……体きついなら、お前置いてから行ってくる」
「……凌馬さんとこ、遠い?」
「帰り道から少し逸れる」
「長居するなら、オレ居ない方がいいと思うんだけど……」
「お前が行くなら早めに帰る」
「……俊輔に任せる。オレ、帰った方が良ければそうする」
そう言うと、ふーん、と俊輔は頷いた。
その後、メニューを手に取って、持ち帰りのページを開くと、呼び出しボタンを押した。
指さしながら、注文してるのを何となく聞きながら、窓の外の海を眺める。
……なんか。ちょっと。デートで来るような店だなあ。
店の雰囲気もだし、外の景色もだし。
ここに、凌馬さんと二人で来てたとか。ちょっと笑える。
そんなことを思いながら、景色を見ていると、俊輔の注文が終わったみたいで、店員さんが離れていった。
「どこに、凌馬さんと座ったの?」
「ん?」
「ここ来た時」
「……どこ……ああ、あん時混んでたから、ど真ん中だった」
「ど真ん中って」
「あそこらへん」
俊輔が指さすのは、ほんとに店舗のど真ん中。窓際と壁際にテーブル席が並んでて、キッチン側にカウンターもあるのだけれど、その合間の空間に丸いオシャレなテーブル席がいくつもある。
「あそこに二人で? ……目立ってなかった?」
「……あいつと二人で居ると、よく見られるから。気にしねえけど」
「なるほど……」
目立つもんね、分かる……。
ふ、と笑ってしまうと。何笑ってんだよ、と言いながらも、俊輔は、それ以上は何も言わずに、また微笑む。
……穏やかだなあ……。
あの日のことが嘘みたい。
俊輔が近くに居て、こんなに穏やかだと思う日が来るなんて、思わなかった。
一緒にご飯、食べたり。
外に連れ出されて、ご飯食べに来たり。
学校に行ってもいいよ、とか。
……抱かれることも、なくて。
でも、毎日一緒のベッドで寝てる。
……ずっと抱き締められた、まま。
この関係って、何なんだろうか。と思うけど。
……今日久しぶりに帰ったあの家に、帰りたいと、思わなかった自分のことも、謎。
俊輔とこんなふうにずっと居るなんて思ってないけど。
今のこの感じで居れるなら。その間だけでも、居たいなと、思ってるオレが居る、気がする。
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