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19.「俊輔の後輩」*真奈
食事の後、海を見ながら帰ってきて、凌馬さんが居るという店にやってきた。
バイクを下りてヘルメットを俊輔に返してから、連れられて店の中に入る。でっかい音で音楽がかかった喫茶店。
ドキドキしながら中に進むと、別に特攻服ばかりが居る訳ではなかった。よかったー。暴走族のたまり場なのかと……。
「中は普通のクラブだから」
俊輔がそう言ってたけど、ほんとにそんな感じ。でもオレ、クラブとやらもあんまり知らないから、どっちにしても、ドキドキはする。
「真奈、何か飲んでていいぞ。……#宗__ソウ__#!」
「あ、俊輔さん!」
カウンターで飲み物を作ってた「宗」と呼ばれた人が慌てて近づいてきた。すごく嬉しそうに。
「お疲れ様です! 来てくれたんですねー」
「ああ。凌馬は?」
「奥です。どうぞ」
「案内いいから」
案内しようとした彼に、「こいつに何か飲ませといて」そう言いながら俊輔はオレに視線を流した。
「あ、はい! 分かりました」
頷いた彼と目を合わせてから、俊輔は、奥の方に進んでいった。
「えーと……オレ、#宗一__ソウイチ__#ね。俊輔さんは宗って呼んでくれてるから……宗、でいーよ」
「宗さん、でいいですか?」
「オレ、俊輔さんの一個下なんだけど。年は?」
「あ、オレも」
「じゃあ、宗、でいいよ。ため口で全然」
「……うん。真奈、だよ」
この人にまた会うことがあるのかなぁと思いつつ名乗る。こっち来てとカウンターに誘われて、椅子に腰かけた。
「何飲みたい?」
「コーヒーとかあれば……」
「アイスで良い? ミルク入れる?」
「あ、うん。ありがとう」
頷くと、手際よくアイスオレを入れてくれて、オレの前に出してくれる。
「いただきます」
なんだかすごく見られてる気がして、なんだろ、と思いながら、冷たいアイスオレを喉に流し込んでいると。
「あのさぁ、お前ってさ」
「……?」
「しばらく前にさ、別のクラブに、乗り込んできたりしたことある?」
「……」
俊輔に会った日のことだろうか。そう思いながら、宗を見ていると。
「俊輔さんに、連れていかれたりした?」
これに頷いたらその後のことを聞かれたりするんだろうか。そう思ったら返事も不用意にできない……。
答えられずに困っていたんだけれど、否定をしなかったことで、宗は、肯定と受け取ったみたいだった。
「答えにくいならいいや。……でも、良かった、なんか無事で」
「……? どういう意味?」
思わずそう聞いてしまうと、宗は、ふ、と笑った。
「オレ、あん時俊輔さんと居たんだけど……実はすっげー気になっててさ。オレのものになるならとか、俊輔さんが超珍しいこと言って、しかも男。しかもお前、βだよな? 全然意味わかんなくて、何で? って思ってさ。その後、話一切聞かねーし。生きてるのかなってすげー気になってて」
「――――……」
「あ、違うよ? 俊輔さんがそういうヤバい人って意味じゃなくて……いやでも、ほんと全然意味わかんなかったから、気になってただけなんだけど」
あはは、と笑ってる宗に、苦笑が浮かぶ。
「あのすぐ後、凌馬さんの通達で、完全に薬からは手を引けってことになってさ。持ってても使っても売っても除名って。どうされようが文句言うなっていう一言付きだから、多分もう、やってる奴はいないと思うんだけど」
「……」
「でもあれ、あそこに凌馬さんは居なかったわけだから、多分俊輔さんの提案だと思うんだよね」
宗の言葉を聞きながら、ぼんやりと、そうなんだ、と思う。
じゃあもう、あの時のあいつらにも、秀人を追いかける理由はないのか。そうしてくれたって、ことなのかな。
そういえば、俊輔の部屋に行って少しして、秀人のことを聞いたら、もう追手が行くことはない、て、それだけ言われたっけ。
そういうこと、だったのか。
ていうか、そうしてくれたって、言ってくれたらいいのに。
言葉が全然足りないんだよ、俊輔。
むー、と眉を寄せて、俯いていると。
「真奈、俊輔さんと来たし……飲み物入れてやれ、とかまた珍しいこと言ってるし」
宗は、んー、と考えて、首をかしげてる。
「お前、ほんと謎。 あ! もいっこ聞きたいことあった」
「……??」
「集会来た? 少し前」
「…………」
「俊輔さんがお気に入りのバイクに初めて人乗せたんだけど、全然普通の知らね―奴だったって聞いてさ。……真奈?」
「……そう、かもだけど…………別にそんなすごい意味、ないと思うんだけど」
屋敷から一緒に出るし、オレがバイク乗れないから乗せただけな気がするし……。
「あー、全然分かってねえな。オレらが、絶対誰も乗せなかったバイクに人乗せる意味」
「……?」
「オレらにとって、バイクってかなり意味、あるからな」
「…………」
うーん……。
……でも俊輔もう族引退してずいぶん経ってるみたいだし、バイクにそんなに意味ないんじゃないだろうか。
「なあなあ、そんでさあ……お前って、今、俊輔さんと居るとか?」
なんて答えればいいんだろう。ほんとオレが勝手に答えていいんだろうか。
「なあなあ、どーなの? この話微妙過ぎて、誰とも話せねーし。オレ、このままじゃ気になって夜も眠れな……」
その時。ぽか、と軽く、宗の頭が小突かれた。
「いて。……あ、俊輔さん」
「尋問すんな」
軽く睨んでる俊輔と、苦笑いの凌馬さんが立っていた。
宗は焦ったみたいに、そんなつもりじゃ、と騒いでる。
……俊輔と凌馬さんの、可愛がってる後輩、てとこなのかな。
なんか色んな情報が見事に結びついてて、すごいな。とか。思ってしまう。
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