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20.「座る位置すら」*真奈
「真奈ちゃん、こんにちは」
クスクス笑いながら凌馬さんが言うと、宗は目を大きくしてこっちを見た。「真奈ちゃん?!」と、きっと、思ってるんだろうなぁと……それしか考えられない顔をしてるから、ついつい笑ってしまった。
「何、お前、凌馬さんに真奈ちゃんとか呼ばれてるの? 何で??」
その質問には、ちょっと首をかしげてしまう。何で、ちゃん付けになったのかは、オレも良く分からないし。答えられずにいると、凌馬さんが笑った。
「呼び捨てよりいいかなと思ってな」
「オレのことは呼び捨てですよね?」
「宗は宗だろーが。ちゃんで呼んで欲しいのか?」
「え゛。そうじゃないですけど……」
複雑そうな顔で、宗は凌馬さんに応えてから、オレを見た。
「なんかますます謎……」
「だから詮索すんなって」
苦笑いで、宗に言う俊輔。
……あ、そんな顔、するんだ。へー……。後輩か。
意外。……というほど、俊輔のことを知ってるわけではないんだけど。なんかちょっと、優しい感じがして、ついつい意外という言葉が浮かんでしまった。
「真奈ちゃん、あの店どうだった? うまかったろ」
「あ、はい。すごく」
久しぶりに外で食事をしたし、なんか、楽しかったから余計においしかった。
凌馬さんを見上げて、頷いて笑うと、凌馬さんは、ふ、と笑って、よしよし、とオレを撫でた。
でっかい手で撫でられると、なんか。
……凌馬さんの雰囲気も相まって、お父さんとかって、こんな感じなのかなあ。とか、思ったりして。
よしよし撫でられるままにしておくと、凌馬さんが、「あ、やべ」と短く言う。
やべ?
凌馬さんを見上げて、苦笑いのその視線の先を追って俊輔を見る。
俊輔は別に何も言ってなかったのだけれど、オレの視線が向くのと同時にオレを見て、なんか、すぐ、ムッとした、ような。
ん? 何で怒ってんの……?
思わず首を傾げて見上げると、凌馬さんが笑った。
「オレが真奈ちゃん撫でるの気にくわないだけだから。嫉妬は醜いよなあ?」
「黙っとけ」
俊輔が短く制して、そのまま、近くの席に先に座ってしまった。
嫉妬? それはないと思う……。凌馬さんはたまに言うことが分からない時があるなあ、なんて思っていたら、あっち座ろ、真奈ちゃん、と凌馬さんに言われた。宗が渡してくれたコーヒーを持って、俊輔のテーブルに近づく。
……どこに座ろう。二人なら前に座るけど……凌馬さんが居るし。凌馬さんが俊輔の隣かな……??
席ですらどう座るかちょっと考えてしまう。
凌馬さんが座ってから、考えよう、と思っていたら、凌馬さんは当たり前のように俊輔の向かい側に座った。
……これ、オレ、俊輔の隣……? 俊輔は一人で広く座りたいかな? 凌馬さんもかな。いや、そもそも、オレ、ここに呼ばれた訳じゃないし。凌馬さんは座ろうって言ってくれたけど、俊輔に呼ばれた訳じゃないし、オレはさっきのカウンターにいた方がいいのでは……??
一瞬でたくさん色んなことを考えて固まっていると、凌馬さんがオレを不思議そうに見上げた。
「どした?」
どこに座っていいか分かんなくて、と言っていいのかも分からなくて、どうしようと思った瞬間。
アイスコーヒーを持っていない方の手首を、俊輔に捕まれた。
「座れよ」
そっとではあったけど、明らかに俊輔の横にひっぱられたので、オレはやっと、座る位置を決めた。
…………こんなに座る位置だけで考えるとか。
我ながらこの意味の分かんない関係が、本当に意味が分かんないんだなと、再認識。
「……何でお前こいつ撫でんの」
「何でって。可愛いじゃん」
ニヤニヤ笑いながら凌馬さんが言う。なんか不機嫌そうな俊輔は、ちら、とオレを見る。
「お前もいじわるばっか言ってないで、撫でてやんな」
「――――……別に、今、そんなこと言ってねぇし」
肘をついて、顎に触れながら、俊輔が答えてる。
「いじわるされてない? 真奈ちゃん」
凌馬さんが面白そうに聞いてくるので、首を横に振った。
調子が狂う位、されてない。
抱かれることも、無いし。
……恥ずかしいこと、求められることも、ないし。
ふーん、と頷いてから、凌馬さんが可笑しそうに笑いながら、「よかったな」と言う。
良かった、か……。
うん。まあ……でもなんか、抱かれることもないのに、俊輔の部屋に居る、とか。
それだけが目的だと思っていた時よりもむしろ、今どうして一緒にいたらいいのか戸惑いまくりで、良かったと、素直には言えないのだけど。
と思うけど、俊輔の前でそんなこと言える筈もない。
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