135 / 139
46.モヤモヤの正体*真奈
「――――」
頬に触れられて、じっと見つめられる。なんだかすごくドキドキしてきて、オレはただ俊輔を見つめ返していた。
やたら静かだ。心臓がドキドキしてる音、聞こえちゃうんじゃないかなと、思った瞬間。
抱き寄せられて、すっぽり、抱き込まれてしまった。
「……すこし――このままでいいか」
耳元で囁かれて――自然と、ん、と小さく頷く。
少し後。垂らしたままだった腕をゆっくりと持ち上げて、俊輔の背中の服を握り締めた。
「――……」
ふ、と、見上げると、ふ、と瞳が緩む。
なんか、すごく優しい顔、してる。
「――俊輔、酔ってる?」
「んー……まあ、少しな」
「……そっか」
何だかゆっくりな返事の仕方に、ふふ、と笑ってしまう。
「――悪い。お前が来た経緯は、話すと厄介だから、話さない」
「……ん」
それは分かるので、ん、と頷く。
「梨花の時のこともあるから、違う部屋で寝てるってことにしたくて、この部屋に来させたけど……でも別に、お前のこと、隠したいとかじゃねえから」
「――……」
「……って。何言いたいか、わかんねえか……」
オレを抱き締めたまま、俊輔が呟いて――それからまた、ぎゅ、と力を入れた。
……何言ってるかは、分かるけど。
――どういう意味かは良く分かんない。
――隠したいとかじゃないって。
「……オレも……余計なことは言わない方がいいと思うから、全部、これで良いと思ってるし。そこは、何とも、思ってない」
オレが言うと、ふと顔を少し離して見つめ合って。少しの間無言だった俊輔が、ふ、と苦笑した。
「そこはってことは、なんか、他に、思うことがあるんだよな?」
「――」
「言ってみな?」
クスクス笑う俊輔の手が頬に触れる。
「――俊輔は、いま、どうして、ここに居るの」
「――――どうしてって……」
「……オレ、色々考えてたんだけど、ずっと……なんかモヤモヤしてて」
「――ん」
少しだけ唇を引き締めて、俊輔がオレを見つめる。
「なんかオレ俊輔と、いつも、一緒に居てもね……」
「――ああ」
「……怒らない?」
「は? 怒らねえよ」
苦笑いの俊輔を見上げて、思い切って。
「俊輔と居ても、何話していいかまだ困るし、ちょっと気まずかったり、よくわからない時がいっぱいあるのに」
「――おい」
「……怒った……?」
聞いてみると、「怒ってない。ツッコんだだけ」と微笑む。穏やかな笑みを不思議に思いながら。
「……なんか、一人で――モヤモヤしてて」
「……ん?」
「顔見て、思ったんだけど――なんか、ここに一人って、寂しいな、て思ってた、のかも……」
「――」
「来てくれた時、なんか――ちょっと嬉しかった、かも……」
なんか俊輔は真顔だけど。
視線は、逸らされなくて。オレも目を離せない。
「オレは――昼間から、側には居たのに離れてたから、来た」
え、と思った時。不意にオレは、ドアに背を付けられた。
その手が、オレの頬に触れて、上向かせられて。
「キスしたい。嫌――じゃないよな?」
そんな聞き方。
……もう聞いてないじゃんね。
壁と俊輔の間にとらわれて。
少しだけ頷いた瞬間、唇が触れて、そのまま上向かされて。
深く重なってきた。すぐに涙が、滲む。
心臓が、破裂、しそう。
ともだちにシェアしよう!